臨床社会学プロジェクト

代表者: 中村正 (産業社会学部 教授)   研究期間: 2020/04 -

本研究プロジェクトでは、以下二つのテーマの研究を推進しています。

1)社会的養育についての臨床家族社会学的研究―ケア、エデュケーション、コミュニティの統合をもとにしてー(日本財団助成金)

虐待とDV問題の増加に対応するための家族支援の新しい展開をささえるカギとなるのは、社会的養育の充実である。その社会実装研究である。特に厚生労働省の提起する「新たな社会的養育ビジョン」の方向性を勘案した、具体化にむけ実効性のある家族支援にかかわる臨床社会学的な研究である。

「ビジョン」には、社会的養護で暮らす3歳未満児童の75%を5年以内に施設ではなく家庭または家庭に類する環境で養育するという政策課題の数値目標が明記されている。これを具体的に実行するには、養育里親を中心とした社会的養育の体制整備が急務である。

特に重視するのは、単に代替的な家庭的養育環境を構築するという受け皿的な条件整備ではなく、どの家庭においても必要な「ケアとエデュケーションの統合」をもとにしたユニバーサルな家族支援の構築である。さらに養育家族や原家族が生きる場としてのコミュニティでの育ちの観点も重視すべきである。家族だけに養育の責任を押しつけるとそれは社会的養育ではない。

これらを包括し、「家族への臨床社会学研究」としてまとめていく。その上で、社会実装的な課題を設定して研究する。家庭的養育を支えるための制度を実践するための支援職である専門職「フォスタリングソーシャルワーカー」を支える実践概念の構築と社会実装をめざす。

これまで施設が担っていた複雑かつ多様な機能を「フォスタリングソーシャルワーク」の概念として再構築し、それを支える地域での福祉実践へと展開し、さらに専門知へと上昇させていくことの実装的試行をしながら開発的研究を行う。

具体的には次のような手順で社会実装的研究をすすめる。

  1. 養育里親家庭との連携によるニーズ調査
  2. 養育親への研修内容の開発(とくに真実告知とライフストーリーワーク実践含む)
  3. 子どもと家庭のアセスメントとマッチング
  4. 子どもを委託された里親家庭への支援
  5. 子どもが里親家庭から実家庭に戻るもしくは社会的に自立する際の支援である。

これらの実践領域の開拓は、本来児童相談所が担うべきであるが、現状では児童相談所は虐待対応に追われており、十分な対応ができていない。そのため、これまで日本で家庭的養育が促進されず、施設偏重が続いてきたのである。結果として、フォスタリングソーシャルワーカーの育成が先送りになっている。

本研究の実践的課題は、良質な家庭的養育としての里親資源を社会的養育の子どもに提供していく上で最も大きな問題であるといえる。本研究はこの一連の諸課題を連続的なものとして把握し、養育家族の事例検討をとおして、フォスタリングソーシャルワーカーの専門職としての力量の向上をめざすものである。

2)男性相談の理論と実装の研究(京都府からの受託研究)

その家族のなかの父親の暴力がなくなればどんなに健康的になるのだろうかと思う家族がほとんどだ。それを意識して虐待した父親たち向けのグループワークを実施している。「男親塾」という。大阪全域の児童相談所と立命館大学人間科学研究所の臨床社会学プロジェクト(代表:中村正)が連携している取り組みである。もう14年経過した。児童相談所からみればケースワークのなかに位置づいている。子ども虐待だけではなく、ハラスメント、体罰、DV、殺人、性犯罪等で処分・処罰された男性たちや違法薬物使用者たちと多様な枠のなかで対話をしながら加害者研究をすすめている。

彼らの日常のなかからこれらの行為が生起する。加害者の意識や行動には暴力を肯定し、誘発するような特徴がある。彼らは暴力を肯定するもしくは否定しない社会意識を招き寄せ、自己物語をつくっている。また暴力を正当化する理由も都合のよいものが動員されてくる。特に「正義」の観念が暴力肯定の根拠にされる。相手の非を責め、自らがそれを是正するために用いざるを得なかった暴力だという。これを「加害者の暗黙理論」と把握し、暴力実践の知として「思考化」されていると考える。親子関係、夫婦関係、師弟関係等の個体間距離の短い関係性(親密な関係性という仮構)が暴力へと至る葛藤を昂じさせる役割を果たしている。

しかし、男性たちは暴力については語るが加害については言葉がでない。加害のナラティブを促し、行動と意識の変容をどうしていくべきなのか。男性性ジェンダーによる暗黙理論や実践の知を取り出し、それを対象にして脱暴力に向けた変化の機会を提供すべきことについて研究をおこなうが、その実装的研究として「男性相談」をおこなう。そこで得られた知見を脱暴力カウンセリングとして理論化し、さらに個別相談を超えてグループワークによる加害者プログラムを編んでいくための質的データにしていく。

参加研究者

  • 中村正 (産業社会学部/人間科学研究科 教授)
  • 村本邦子 (人間科学研究科教授)
  • 石田香奈子 (産業社会学部教授)
  • 斎藤真緒 (産業社会学部教授)
  • 徳永祥子 (衣笠総合研究機構准教授)
  • 尾崎俊也 (人間科学研究科客員研究員)
  • 千葉晃央 (人間科学研究科客員研究員)
  • 荒木晃子 (人間科学研究科客員研究員)

刊行物

立命館人間科学研究

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