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インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究障害者やマイノリティをめぐる動向と包摂/排除の基礎研究

筆者: 渡辺克典(衣笠総合研究機構特別招聘准教授) 執筆: 2015年9月

<学=実>連環と基礎研究

 基礎研究チームは、インクルーシブ社会の実現に向けた予見的支援の創出・伴走的支援の推進・修復的支援の展開という3つの柱の末尾に位置づけられ、社会的包摂や支援に関する理論的かつ基礎的な研究に取り組んでいます(全体的な位置づけについては、『インクルーシブ社会研究』第3号の稲葉光行論考と小泉義之論考をご参照ください)。理論的かつ基礎的な研究は、おもに大学研究機関だけでおこなわれる<学>として、ただ研究室でデータと研究書を読み込むクローズドな活動としてイメージされがちです。もちろん、このような内省的で着実な取り組みこそが<学>の強みでもあるわけですが、とくに「支援」をめぐる研究課題には<実>として位置づけられる領域(各種の機関、施設、専門職、家族、市民、地域社会など)と連関を形成する実践のあり方も課題となります。そこで、支援の創出・推進・展開をおこなう3つのチームに随伴しつつ、<実>との連携をはかるプロジェクトとして、一般の人びとも参加できるオープンな場で議論を形成することにも取り組んできました。
基礎研究チームでは、これまで、生存学研究センターと共催するかたちでいくつもの公開研究会を開催してきました。ここでは、2つのプロジェクト――障害者やマイノリティとして伴走的な支援が必要とされている人びとをめぐる政策の動向と、包摂/排除に対する法的な介入をめぐる研究――について紹介したいと思います。

連続セミナー「障害/社会」第2回「障害者権利条約と国内法整備」  現在、日本では障害をもつ人びとに対する法律の仕組みが大きく変化しています。包摂/排除にかかわる議論で言えば、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年法律第65号)が制定されました。障害者の排除に関わるこの法律の制定過程の中で、障がい者制度改革推進会議・差別禁止部会において障害者をめぐる排除としての差別の定義や差別を禁止・解消するための具体的な方策についてさまざまな機関や組織がかかわっています。
障害者の包摂/排除をめぐるひとつの動向には、この法律の前提となる国際的な動向があります。その代表的な例は障害者権利条約です。障害者権利条約をめぐる国際的な取り組みや国内組織がどのような活動をしてきたのか、韓国や中国といった東アジアの組織をまじえた研究体制の構築をすすめています。また、障害あるいは病いをかかえた本人たちが主体となっている組織が参画しています。こういった国際的な組織、国内の「当事者」組織の成果や現在の課題を共有しつつ、基礎研究と市民・地域社会との連携を形成する公開セミナーを継続しています。

 包摂/排除をめぐるもうひとつの基礎研究として、人種・民族・移住労働者などのいわゆる「外国人」をめぐる差別の問題に取り組んでいます。外国人をめぐる包摂/排除については、すでに「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」など国内外でもさまざまな取り組みがなされています。しかしその一方で、人種問題や移住労働者をめぐる社会問題は、国内外を問わず、いまでも新聞やニュースをにぎわせています。
こういった動向の中で、差別問題の一つとしてヘイトクライムやヘイトスピーチと呼ばれる問題に着目しました。とくに路上や公開の場で行なわれるヘイトスピーチは、具体的な被害者がとらえにくいといった特徴から、刑法にもとづく法的介入の是非として議論されています。こういった差別的な現象に関して包摂/排除といった観点からどのような制度や社会構想がおこなわれるべきなのかといった問いは、修復的支援とはことなるかたちでの排除/包摂について問う基礎研究の役割だと考えています。

  • 生存の現代史「労働/生存――外国人労働者をめぐる運動と/の連帯」(2014年1月) http://www.ritsumei-arsvi.org/news/read/id/540-渡辺克典・堀田義太郎・安部彰,ポスターセッション報告(2015年1月)「ヘイト・スピーチにおける包摂/排除の基礎理論研究」人間科学研究所年次総会(「インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究」プロジェクト公開研究会)
  • ヘイトスピーチに抗する――路上・学校・大学(2015年7月) http://www.ritsumei-arsvi.org/news/read/id/645

関連するプロジェクト

  • 全所的プロジェクト:インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究テーマ⑤ 社会的包摂と支援に関する基礎的研究

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