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若者ソーシャルワークに関する基盤研究プロジェクト若者を対象とするソーシャルワーク研究―「あたりまえ」の価値観と対峙する主体の育ち―

筆者: 山本耕平 (産業社会学部教授) 執筆: 2015年6月

「あたりまえ」の価値観に疑いをもつソーシャルワーク

 我が国の「子ども・若者ビジョン〜子ども・若者の成長を応援し,一人ひとりを包摂する社会を目指して〜(平成22年7月子ども・若者育成支援推進本部決定)」は、その策定にあたり、5つの視点を重視しました。それは、①子ども・若者を育成の対象としてとらえるのではなく,社会を構成する重要な主体として尊重する。②子ども・若者を中心に据え,専門家も交えた地域のネットワークの中で成長することを支援する。③すべての子ども・若者の成長・発達を応援するとともに,困難を抱えている子ども・若者がその置かれている状況を克服することができるよう支援する。④今を生きる子ども・若者を支えるとともに,将来をよりよく生きるための成長をサポートする。⑤子ども・若者を取り巻く大人の役割は大変重要であり,大人の側でもよりよい社会づくりを積極的に行うことを求めるというものです。この5点は、子ども・若者の貧困化と社会的排除が深刻化するなかで生じてきた視点です。
 私たちのプロジェクトは、この深刻化する子ども・若者の貧困化と社会的排除に対峙するソーシャルワークの哲学や方法、政策、運動について検討しています。若者を対象とするソーシャルワーク研究は、若者たちが、この社会に適応しなければならないという「あたりまえ」の価値観に疑いをもつことから出発しなければなりません。
 そもそも、若者たちは、青年期において、親の束縛から解き放たれ、自身が歩むべき方向を見出しつつ自己の発達課題と向き合おうとします。しかし、 “競争”のなかで不自由な生活を強いられてきた若者の親たちは、わが子に、歩むべき方向を指し示す力を喪っているばかりか、自己を不自由に陥れてきた“競争”と差別から子どもを救う力を喪っているのではないでしょうか。そのなかで、親子が、共に不安定な中で孤立の危機にあるのです。岩田正美は、「日本では、親がキレずに、パラサイト(寄生)させて、子どもの不安定な大人への移行を親が支える、または、その不安定を親が隠す、ということが少なくない」と、我が国の移行期の不安定さを指摘します。
 若者ソーシャルワークは、資本主義社会の構造的諸矛盾により、生活者として生きる力と機会が奪われている彼や彼女たちが、その矛盾とどう対峙するのかを問うものとなる必要があります。それは、失った機会や力を回復することに視点をあてる実践となるとともに、新たな人生を築き上げる力を獲得することが可能となる実践として構築されなければなりません。若者が、現在の社会にただ適応する為の方法を伝授する技術を検討することを目的とするものであってはならないのです。

若者ソーシャルワークと実践者・当事者・地域住民の協同的関係性

 若者たちは、集団やコミュニティに積極的に参加し、他者と歴史意識を共有し、仲間意識を醸成し、情報を交換し、新しい道を主体的に切り拓く実践のなかで、社会と向き合う方向性を見出すのです。私たちは、その実践をいくつかの視点で、その実践を分析しなければなりません。もちろん、その分析は、実践者・当事者・地域住民が協同的関係性を追及し、つながりを築き上げ「支援者」も「被支援者」も同等に参加するなかでこそ可能となります。
 若者実践に関わる若手実践者は、何らかの社会的課題を有する若者の課題を克服する為に共に生きることを追及しながら、自身の実りある青年期を生きている。若者実践者が、「対象」としての「若者」を実践現場で捉えるのみでは、地域住民との育ちあいは困難であろう。少なくとも、その若者が生きている地域と若者、実践者との関わりを追究するミッション性をどう高めるかが問われます。

なぜ、家出なのか

 私たちは、韓国と日本における子ども・若者の貧困状態について検討を加えてきました。子ども・若者の貧困状態とは、経済的貧困だけでなく、制度や関係等の総体的な貧困状態であり、「虐待」、「いじめ」、「家出」といった事実の経験も含まれています。なかでも、若者の貧困状態を捉える際に「家出」に注目しています。それは、若者が社会的排除状態へと至る過程での、若者の「行為」という側面に注目するためです。「行為としての家出」に着目することにより、これまで聞こえてこなかった貧困状態にある若者の声を知ることができると考えています。彼ら・彼女らが「家出」という行為になぜ至ったのか、その行為に含まれている意志やねがいに迫るための新たな視点を提供してくことを目指しています。

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