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開かれた学校づくりプロジェクト学校における居場所と開かれた学校づくり

筆者: 神崎真実(立命館グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員) 執筆: 2018年11月

 近年、注意散漫で椅子に座っていられない、他者からの視線が気になり教室にいられない等、学校に居ることが難しい子どもが増加しています。こうした事態に対し、学校教育は、より丁寧に、より遺漏なく子どもたち個々人を支えることに力を注いでいます。しかし、人がある場所にいるということは、その場にいる人々の共同主観の『地』の上で、人がある姿で居るという『図』が無理なく成立するという全体的な環境によって支えられます(南,2009)。こうした見方をとるならば、学校に「居ること」の難しさは、その環境・場の中で起こっているのであり、学校における居場所づくりは、生徒個々人への支援に勝るとも劣らない重要な課題であると考えられます。

「居場所」が意味すること

 そもそも、居場所をつくるとは、どういうことでしょうか。居場所づくりの実践は、不登校問題を発端として学校外で発展してきました。人は、ある場所に居ることによって他者や社会との様々な関係を認識し、自己を定位していきます(鈴木,1993)。学校での居場所を失った子どもたちは、他者や社会との関係を認識し、自己を定位していく場の1つを失います。だからこそ、子どもたちが再び他者や社会と繋がっていけるよう、学校外で居場所をつくることが重視されてきたのです。居場所づくりの実践には、物理的な場所をこしらえる以上の意味が含まれています。例えば、私たちは教育を語るとき、大人が子どもを支援・指導する関係を想定しますが、居場所づくりにおいて、大人は子どもの同行者・伴走者となります(萩原,2009)。また、私たちは子どもの学習や心理発達について語るとき、何かをすること・成すこと・他者と関わることに焦点をあてますが、居場所では、そうした行動や活動の土台となる、居ることが重視されます。

開かれた学校づくりへの注目

 学校という場においても、こうした居場所づくりの実践が試みられてきました。例えば金澤(2005)は、自身が関わった中学校の保健室での事例をもとに、保健室にやってくる生徒は、役割を横において関わろうとする養護教諭と関わりに来たのであって、何らかの相談を目的としていたのではないとして、ただ一緒にいる空間を創出していくことの重要性を指摘しています。ただし、学校教育は基本的に、一定のペースで進むカリキュラムと集団活動で成り立っているため、居場所づくりの論理を学校に直輸入することは出来ません。したがって、学校教育の役割を考えつつ、同時に子どもたちの居場所をつくっていくような論理・モデルが必要になります。
 そこで注目したいのが、「開かれた学校づくり」です。日本の学校は、地域住民や大学生など様々な人が行き来する、開かれたコミュニティへと変わろうとしています。子どもを育むにあたり、学校の役割が肥大化してきたことへの反省から、平成18年に改正された教育基本法では、学校・家庭・地域の連携協力に関する規定が追加されました。現在は、連携協力を具体化するべく、地域が学校を支援する「学校支援地域本部」や、地域と学校のパートナーシップに基づく「地域学校協働活動本部」の設置が続いています。こうした学校‐家庭‐地域が一体となって子どもを育もうとする動向に支えられ、学校教育に様々な人が関わりはじめました。

開かれた学校づくりと居場所

 学校に様々な人が関わるということは、学校教育の論理に、色々な価値観や思想が入ってくることでもあります。開かれた学校づくりは、地域住民や学生ボランティアが教師の肩代わりをするだけに留まりません。そのため、学校という場所で誰がどのようにして子どもを育むのかをめぐって、さまざまな問題や軋轢が起こります(武井、2017)。私は、この問題や軋轢のなかに、学校における居場所づくりのヒントがあるのではないかと考えています。目的があり、何かを成すための場である学校の中に、目的なく訪れることのできる場や関係性はつくれるでしょうか。これから、開かれた学校づくりを媒介にして、学校における居場所づくりについて検討していきたいと思います。

引用文献

  • 萩原健次郎 (2009).「子どもの居場所」最新 教育キーワード第13版 時事通信社
  • 金澤ますみ (2005). 3章 学校の中で子どもどうしが生きる社会 浜田寿美男・小沢牧子・佐々木 賢(編)学校という場で人はどう生きているのか(pp. 70-98) 北大路書房
  • 南 博文 (2009). 子どもたちに居場所はあるか―「居方」というサイン 教育と医学pp.138-146
  • 鈴木毅(1993).「居方」からみる環境デザイン(連載)建築技術
  • 武井哲郎 (2017). 「開かれた学校」の功罪―ボランティアの参入と子どもの排除/包摂 明石書店

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