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CBSプロジェクト/ACT プロトコルの作成プロジェクト随伴性に敏感になる

筆者: 谷晋二(総合心理学部 教授) 執筆: 2018年05月

自身の行動や考えに影響を与えている環境

私たちは、生まれてからこれまでの間で、環境の中にある多様な刺激に反応することを学習しています。光や音、匂いなどの物理的な刺激のこともあるし、他者の言葉や自分自身の考えなどのように言語的な刺激もあります。不安や恐れ、緊張のような身体的な感覚と言語的な刺激の混在した刺激のこともあります。それらの刺激に対する反応は多様で一人一人違っています。そしてその反応の結果によって変化する環境によって人の行動は長い時間をかけて形成されてきています。
私の行動は、数十年という環境との相互作用(つまり、環境にある刺激と私の反応、そしてその結果としての環境の変化)の結果なのです。

随伴性を辿ってみる

相互作用の流れは随伴性と呼ばれます。どんな環境刺激に、どんな反応をして、その結果どのような環境の変化が起きているのか。それに敏感になると、私たちの行動が生じている相互関係の流れをたどっていくことができます。皆さんは、どんな刺激に対して、どのように反応しているのでしょう。それは皆さんの学習の歴史を反映しています。その流れを辿ることは、時にはうまくいかない行動が反復していることを気づかせてくれます。

自身の行動を選択する

うまくいかない行動が反復している時、私たちは別の行動を選択することができます。以前と同じ行動をすれば、多分同じ結果が起きるかもしれません。これまでと異なる刺激に反応すること、これまでと異なる行動をすることで、これまでと異なる随伴性に出会うことができるかもしれません。それは時には好ましい結果をもたらすかもしれませんが、そうでないかもしれません。その時にも、随伴性をたどってみましょう。試してみて、うまくいく方法を見つけていきましょう。

あなたにとって大切なこと

あなたにとって大切なことはなんでしょう。大切なことに向かって行動することは、とても幸せなことです。それでも、大切なことに向かって行動することは、容易ではありません。様々な障壁に出会うでしょう。その時、どんな随伴性がそこにあるのでしょう。それに敏感になってみると、障壁があってもそれを「するり」とかわして、大切なことに向かっていくことができるかも知れません。障壁を打ち破るだけが方法ではありません。そういう柔らかな対応を身につけてみましょう。

私に起こったこと

私はアイルランドで1年間の学外研究をしていました。毎日、アパートのドアを開けると、そこはこれまでとは随分異なる随伴性の世界です。日本語が話せる人は全くいません。生活習慣も異なっていました。私自身が長く学習してきた多くの行動が「うまくいかない」ことが毎日ありました。不安と緊張の連続でした。大学へ向かう道では「今日は何の話をすればいいのだろう」「英語でなんて言えばいいのだろう」と考えていました。そういう考え(行動)は、私に不安と緊張を引き起こしてきました。
不安と緊張をゆっくりと辿ってみたとき、私は大切なことに気づくことができました。その一つは、「チャレンジを続ける」ことです。毎日ドアを開けるとき、私はチャレンジを続けるという大切なことに向かって行動していたのです。チャレンジに不安や緊張はつきものですし、失敗も、見通しのなさも当たり前に起きることです。不安や緊張、失敗のないチャレンジや、うまくいくことが保障されているチャレンジは、なんとも味気ないものでしょうね。

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