向社会的行動とウェルビーイングの関連における Acceptance and Commitment Therapy の心理的柔軟性プロセスの役割(プロソーシャル×ACT プロジェクト)

代表者: 井上和哉   研究期間: 2025/4 -

ヒトは日常生活の中でしばしば他者に親切な行動をとったり、手助けを行ったりする (Eisenberg et al., 2006)。このような向社会的行動は対人関係の構築と維持に役立つだけでなく、行為者自身のウェルビーイングの向上にもつながる (Hui et al., 2020)。しかしながら、向社会的行動とウェルビーイングの関連は常に一定ではなく、個人の認知・行動傾向によって調整される可能性がある。
本研究では、近年注目されている Acceptance and Commitment Therapy (ACT) の理論的枠組みに着目する。 ACT は心理的柔軟性を高めることで、不適応的な思考や感情にとらわれずに意味のある行動をとれるよう支援する (Hayes et al., 2012)。ACT が向上を目指す心理的柔軟性は、アクセプタンス、脱フュージョン、今、この瞬間への柔軟な注意、文脈としての自己、価値、コミットメントされた行為の 6 つのプロセスによって構成される。アクセプタンスとは、その瞬間ごとに体験する事柄に対して意図的に、オープンで、受容的で、柔軟で、批判的ではない姿勢をとることであり、脱フュージョンとは、思考などの内的な経験に不必要に没入するのをやめ、単に進行中の精神的な活動として眺めている状態であり、今、この瞬間への柔軟な注意とは、今展開している事柄に対して、注意深く、自発的で柔軟な姿勢で向き合うことである(Hayes et al.,2012 武藤他監訳 2014)。また、文脈としての自己とは、自己を相対的に眺めている視点であり(武藤ら, 2011)、価値とは、言語的に構築された包括的な人生の目的(Hayes et al., 1999) 、コミットされた行為とは、選択した価値に沿って行動をとることである(バッハ・モラン, 2008 武藤他監訳 2009)。これらのプロセスは、他者への配慮を含む意思決定や行動後の心理的結果に影響する可能性があるにもかかわらず (Atkins et al., 2019)、国内外において、向社会的行動との関連については体系的な検討がなされていない。
本研究では ACT の心理的柔軟性プロセスが向社会的行動とウェルビーイングの関連をどのように調整するか検討を行う。これにより心理的支援の個別化に向けた理論的基盤が整備されることが期待される。
本研究は ACT の観点から「誰が」「どのような条件下で」向社会的行動を行うことでウェルビーイングが向上するのか、もしくは向上しないのか、という問いに答えるものであり、対人援助領域における効果的な介入設計にも貢献しうる。

参加研究者

  • 井上和哉 (人間科学研究科・助教)
  • 谷千聖 (総合心理学部・特任助教)
  • 小國龍治 (就実大学心理学部・講師)
  • 姜来娜 (関西学院大学・文学部・研究員)

主な研究資金

2025年度 人間科学研究所 萌芽的プロジェクト研究助成プログラム


刊行物

立命館人間科学研究

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