VRシミュレート証言研究プロジェクト
目撃証言研究はこれまで膨大な研究が行われているが,そのほとんどが実験室における研究である.記銘・保持・想起の記憶研究の枠組で捉えることにより様々な成果が生み出されてきた.しかし実験室研究は実際の目撃証言と比較して,操作しやすい変数を扱う,変数分布の異なり,変数統制,という側面で異なっている(Wells & Turtle, 1987).そのため実際の目撃証言を評価する際には,実験室実験の知見も考慮しつつも,その特殊性に関しても勘案するべきである.
実験室実験以外の手法も行われていないわけではない.例えばより実際の状況に近い形を取る,古くはStern(1902)によって行われた,演習講義中に不審者が立ち入り,演習講義者に後日聞き取りを行った現実実験がある.また実際の事件に極力合わせたシミュレート実験も存在する.例えば仲ら(1997)は自民党放火事件の目撃者と類似させるために特徴的な客のことを実際の店舗販売員が一定期間後でも記憶しているのかを検討した.現実実験やシミュレート実験は,実験室でのモニターなどで映像等の刺激提示よりも実際の状況に近いといえるが,統制や再現性の担保が劣り,また実験室実験よりも大がかりになってしまうことから困難であるといえる.
近年,VR機材の技術向上し,従来のユーザーの周囲を大型ディスプレイで覆うような提示から,VivoやOculus Riftのような没入型ヘッドマウントディスプレイ(head mounted display; 以下,HMD)の機器へと推移した.HMDは広視野角や立体視の実現,頭部運動のトラッキングにより高い没入感を実現している(近藤ら, 2016).つまりHMDでの視聴はディスプレイでの視聴よりも高い没入感が期待され,より現実に近い認識がされる可能性がある.
そこで本プロジェクトでは,HMDでの映像提示とディスプレイでの映像提示により記憶や没入感,印象が異なるか検討を行う.また被害者への聴取手法に関する研究においても,目撃証言と同様の提示手法で検討されている.そこで被害者への聴取手法のなかでも司法面接に着目し,同様に提示手法によって影響があるか検討を行う.そのためにまず実験1(HMDとディスプレイによる映像提示が没入感や印象に及ぼす影響)では,HMDとディスプレイ,360°カメラと一般的なビデオカメラの映像で大きく印象が異なるのか検討を行い,目撃証言用の映像作成のために最適な映像の作成を行うための基礎的な調査を行う.次に実験2(HMDとディスプレイによる映像提示が目撃証言に及ぼす影響)では目撃証言において提示手法と聴取手法が影響を及ぼすか検討する.
参加研究者
- 中田友貴(R-GIRO・専門研究員)
- 森田磨里絵(BKC社系研究機構・専門研究員)
- 武田悠衣(人間科学研究科・博士課程後期課程)
- 藤本和希(人間科学研究科・博士課程前期課程)
- 中島佑里子(人間科学研究科・博士課程前期課程)
- 杉本菜月(人間科学研究科・博士課程前期課程)
主な研究資金
2022年度人間科学研究所 重点研究プログラム