犯人識別手続きが目撃者の記憶の正確性に及ぼす影響

代表者: 稲葉光行   研究期間: 2021/4 -

 人の記憶は容易に変容することは、多くの研究から明らかにされてきた(Loftus & Palmer(1974) など)。しかし、これらの研究知見が日本の司法においては十分に適用されてはおらず、このことが、誤った目撃証言によってえん罪が発生する一つの要因となっている。例えばBrandon(2013)は、有罪確定後にDNA型鑑定によってえん罪が明らかになった者の76%(250人中190人)に誤った目撃証言が関与していることに加え、そのうち36%(190人中68人)に複数の目撃者が関与していることを明らかにしている。これらをふまえると、事件の目撃者から情報を聴取する際には、目撃者の記憶が変容しないように、十分に留意する必要がある。
 稲葉ら(2020)によると、アメリカのニュージャージー州の最高裁判所では、2011年に、目撃証言の信頼性を評価する項目が陪審員に説示として示され(New Jersey v. Henderson, 2011)、説示項目の中には、ダブルブラインドで識別手続きが行われたか(目撃者に対して犯人識別手続きを行った捜査官が容疑者を知らないことに加え、目撃者が捜査官を知らないことを伝えられたか)が含まれることとなった。
 日本においては、事件の目撃者から情報を聴取する際、ダブルブラインドを含む統制された識別手続きは取られていない。青木(2018)によると、日本の裁判においては、科学的エビデンスにもとづいて客観的に評価することよりも、「具体的、詳細で迫真性」に偏って供述の信頼性を評価する傾向にある。日本におけるこうした状況を改善するためには、識別手続きと目撃者の記憶の正確性との関係を明らかにする実証的データを提示し、適切な識別手続きの在り方について議論する必要があると思われる。
 

参加研究者

  • 稲葉光行(政策科学部・教授)
  • 山田早紀(衣笠総合研究機構・プロジェクト研究員)
  • 山崎優子(衣笠総合研究機構・プロジェクト研究員

刊行物

立命館人間科学研究

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