ギャンブル行動研究における他者の影響:ハームリダクションの観点から
ギャンブル依存症(精神疾患の診断・統計マニュアルでは,ギャンブル障害)は「臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行為」と定義される。嗜癖行動や依存症に対する治療において,近年,ハーム・リダクション(harm reduction: HR)の概念が重要視されている。HRとは,「依存性のある物質の使用や問題を引き起こすリスクのある行為を直ちにやめるよりも,その物質の使用や行為によって引き起こされる悪影響や健康被害を減らすための取り組み」である。HRの実践例として,賭け金の上限設定,スロットマシーンなどのゲーム機の台数制限,ATMの撤去などがあり,これらがギャンブル行動に対して一定の効果をもたらすことが示唆されている。
本申請課題では,新たなHR実践として,他者と「共同して行う」ことが,ギャンブル行動を抑制するかを検討する。ヒトを対象とした実験室実験の先行研究では,単独で実施するギャンブルは,監視役がいる場合と比較して過度のギャンブル行動につながることがわかっている(Lemoine et al., 2017; Rockloff et al., 2011)。しかし,ギャンブル依存症の多くは,家族等に隠れて一人でギャンブルをするため,わが国のギャンブル場面(例えば,パチンコ店)においてHR戦略として「監視役」を活用することは,倫理的あるいはコストの面から非現実的である。そこで,本申請課題は,他者と共同で行うギャンブル(「ノリ打ち」)をテーマとする。ノリ打ちは学術的な専門用語ではなく,その定義も明確に定められているわけではないが,本研究では「ノリ打ち」を「2名が独立してギャンブルを行い,総収益を折半すること」と定義する。
参加研究者
- 古野公紀(総合心理学部・特任助教)
- 横光健吾(川崎医療福祉大学・助教)
- 高田琢弘(東海学園大学准教授・准教授)
主な研究資金
2021年度 人間科学研究所 萌芽的プロジェクト研究助成プログラム