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修復的司法観による少子高齢化社会に寄り添う法・社会システムの再構築協議離婚における親の合意による解決の促進と支援-離婚後の子の福祉

筆者: 金成恩(立命館グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員) 執筆: 2016年8月

離婚と子ども

離婚をしようとする当事者は精神的に不安定になり、相手方との関係解消にもっぱら関心があるため、未成年の子どもに対する離婚後の養育費や別居親と子どもの交流などを決めずに、離婚に合意する。離婚という目的を達成した離婚当事者は、そのときになって初めて子どもに目を向けるようになり、子どもをどちらが引きとるかをはじめ、子どもの監護をめぐる争い、時には子どもの奪い合い、養育費の分担・不支払い、別居親と子どもとの交流についての対立など、子どもをめぐる争いが始まる。両親の話合いがまとまらないと子どもをめぐる紛争はより熾烈化する。子どもは自分をめぐっての両親の熾烈な論争、葛藤にさらされ、辛い思いをし、不安定な心理状態におちいる。このような状況に置かれることとなる原因は、離婚に際して、未成年の子の監護について、どのように協議し合意を形成していくのか、合意内容を実現していくのかなど、すべてが両親に委ねられている日本の協議離婚制度にあるといえる。

まず親権ありきで、子どもの福祉には手薄な協議離婚制度

日本の協議離婚手続きは、裁判離婚しかないヨーロッパ諸国や、家庭裁判所による離婚意思確認の手続きと子どもの監護養育に関する取決めをしなければ協議離婚ができない韓国に比べ、非常に簡単である。離婚全体の約9割を占める協議離婚は、当事者の合意だけで裁判所を介さずに、離婚届の提出だけで離婚が成立する。未成年の子がいる場合は、離婚後の親権者を定めれば(離婚により親共同親権は単独親権へと移行)協議離婚ができる。
2011年の民法766条の改正に伴い、離婚届の届書に養育費の分担及び面会交流の取決めのチェック欄が設けられたが、記入がなくても、離婚は成立する。その結果、離婚後、別居親からの子どもの養育費の支払いの懈怠、子どもの奪い合いの紛争が起こりやすくなるといった問題が生じる。なお、両親の間でドメスティック・バイオレンスがある場合は、子どもの養育についての合意形成や離婚後の履行確保はより一層困難である。 つまり、離婚後の子どもの利益は、父母の意思によって左右されることが大きく、必ずしも保障されているとはいえない状況である。こういった現行協議離婚制度においては、本人の離婚意思を確認する手段や離婚後の未成年の子に関する取決めを確保する仕組みの不在が指摘されている。

子どものための合意形成の支援–韓国協議離婚制度から学ぶ

日本と同じく、協議離婚制度を設けている韓国は、1977年、一方的離婚を防止するために、家庭裁判外で当事者の離婚意思を確認する制度を導入し、2007年12月21日には、協議離婚に3か月の熟慮期間(未成年の子がいる場合)を設定し、協議をする前提としての離婚情報案内、専門家による支援、協議書の確認という仕組みを導入した。さらに、政府は国の政策として、2015年3月、養育費履行管理院を創設し、養育費の確実な履行を確保しようとしている。上記の協議離婚意思確認の申請を当事者双方が家庭裁判所に出頭し、それに合わせて、離婚の法的問題、離婚の子どもに与える影響などの親教育(子ども養育案内)を内容とする離婚案内を必ず受け、親権者及び養育者の決定、養育費の負担、面会交流行使の有無及びその方法を具体的に定めた協議書を提出することを義務づけた(2008年6月22日施行)。さらに、協議書作成要領の配付や離婚案内で説明を受けても、協議が難しい当事者には、家庭裁判所が専門家による相談を受けることを勧告することができる。この場合は、家庭裁判所と連携している専門相談機関で相談を受けることができる。政府は国の政策として、2015年3月、養育費履行管理院を創設し、養育費の確実な履行を確保しようとしている。DV加害者については、矯正が可能と判断された場合に裁判官は相談所への相談委託の決定を行い、矯正・治療プログラムを通じて、子どもの養育事項についての親の合意形成を支援している。
以上のように、韓国は、当事者の合意形成支援を強化しており、家庭裁判所をハブとして、外部の専門家、専門機関との連携を促進している。特に心理学的な専門家の関与が果たす役割は大きい。日本の協議離婚において、子どもの利益を優先的に考えられる仕組みが不可欠であり、今後の方向性を考える時、韓国の取組みは一つのモデルになりうるのではないだろうか。実際に、明石市は韓国の取組み(特にソウル家庭裁判所の取組み)をモデルにし、協議離婚での情報案内と相談対応を実施している。

参考文献

  • 二宮周平・金成恩,「義務面談、面会交流センターと養育費履行管理院〜離婚紛争解決の入口と出口に関する韓国の新展開」戸籍時報,第741号2016年6月,11〜22頁。
  • 二宮周平・渡辺惺之編著,『離婚紛争の合意による解決と子の意思の尊重』,金成恩,「韓国におけるDV事案と子の養育保障への取組」,日本加除出版株式会社,2014年,338〜350頁

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立命館人間科学研究

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