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民事責任における損害論の法心理学的再構築 ―多様な被害回復のための司法臨床的支援を目指して民事責任における損害論の法心理学的再構築 ―多様な被害回復のための司法臨床的支援を目指して―

筆者: 松本克美(法務研究科教授) 執筆: 2016年5月

プロジェクトの概要 

梨花女子大学で行った韓国の女子学生へのインタビュー風景 本プロジェクトは、不法行為を理由とする民事損害賠償請求権における損害論を法心理学の観点から再構築することによって被害回復支援のための司法臨床的理論枠組みを開発することを目的とし、具体的には、2013年7月に発覚したカネボウ美白品化粧品による白斑被害における損害論に焦点を当てて研究をした。研究メンバーの木戸彩恵(R-GIRO専門研究員*1)が、専門の化粧心理学の知見と手法を活かして、京都で行われている上位白斑被害についての損害賠償請求訴訟の原告女性たち複数にインタビュー調査を行った。調査では、木戸が卒論指導をしている文学部4回生の今飯田佳世子を補助者として調査を行い、進行度合いや回復についての確かな医学的知見のない白斑被害に対する被害者の不安感や日頃信頼していた化粧品メーカーに裏切られたことへの怒り、対人関係での消極性が心身に与える影響などについて知ることができた。こうしたインタビュー調査に因る知見は、当該訴訟の原告代理人である弁護団と共有し、裁判における損害論の適切な形成に寄与し得るものである。

成果の発表と韓国調査

 2015年10月25日は法と心理学会で木戸が企画者となり、木戸、今飯田、松本がそれぞれ報告するワークショップ「容貌変容の損害論の法心理学的再構築のために」を開催し、研究の中間報告を行い、フロアと意見交換を行った。今までにない最先端の研究として注目を集めた。2016年2月には、松本、木戸、金成恩、今飯田がソウルで調査を行った。とくに、韓国におけるカネボウ化粧品被害の実態を調査する前提として、梨花女子大の学生、院生、研究員などから、化粧に関する意識調査、日本の化粧品に対するイメージなどをインタビュー調査し、日韓の違いについて貴重な知見を得た。なお、韓国調査にあたっては、研究メンバーの金成恩(R-GIRO専門研究員)が的確な調査先を選定し、また、通訳として大いに寄与した。なお松本は民法学の観点から従来の損害論の限界と、今回の法と心理のコラボレーションにより切り開かれるであろう新たな研究地平につき、試論的な論文を発表した(松本克美「時効論・損害論への法心理学的アプローチ―民事損害賠償請求における被害者支援のために」 立命館人間科学研究33号(2016年2月)3-33頁)。

今後の展開

 上記の京都訴訟との関係では、2016年の夏頃までに、木戸が中心となって化粧心理学の観点からの損害論についての意見書を書く予定である。被害者及び弁護団は、法律家とは異なる心理学の観点から被害者の被害実感を言語化することに対して、大きな期待を寄せている。


  • *1 現・関西大学文学部准教授

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