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対人援助におけるエビデンス-実践回路研究対人支援研究の哲学的基盤を求めて

筆者: 松田亮三(産業社会学部・教授) 執筆: 2014年9月

研究の前提を改めて問う

 対人支援領域では、「誰・何をどう支援するか」という主題そのものついての研究が多く、支援をどう研究するかという方法論についての検討、特に科学哲学をふまえた検討について未だ多くの課題が残されています。2013年度人間科学研究所萌芽的プロジェクト「対人援助におけるエビデンス-実践回路研究」では、支援を研究する際に私たちはどのような存在論を前提としているかを問うという根本的な問題から、エビデンスをいかに収集・評価・普及するかという実践的課題まで、含めた研究の前提となる理論について、検討を進めています。

さまざまな研究法とその存在論的基盤

 今日の対人支援の研究では、事例研究とともに、語りに注目した質的研究、定量的な評価指標を用いた量的研究など、多くの研究がすすめられています。質的研究においても、グランデッド・セオリー・アプローチ、現象学的アプローチ、など多様な理論にもとづく、さまざまな方法が提起され、研究の現場で行われています。一方で、量的研究では、数理モデルの発展に伴い、より社会の現実に近い複雑なモデルの可能性が追及されています。私たちのプロジェクトでは、このような各種のアプローチを検討するとともに、対人支援分野における研究の前提となる哲学的理論についても検討をすすめています。

批判的実在論の可能性と対人支援領域での展開

 特に、私たちが関心をもって検討しているのは、批判的実在論(critical realism)といわれるこの四半世紀で発達してきた新しい理論です(バスカー 2006, 2009; Danermark et al. 2002 )。批判的実在論は英国の科学哲学者ロイ・バスカーが開拓し、経済学、政治学等の社会諸科学の方法論者に影響を与え、その有効性をめぐる議論や、それにもとづく研究方法論の探求が真摯に行われています。なお、国際学会として、International Association for Critical Realism(IACR)が組織されています。本研究プロジェクトは、批判的実在論に関する人文科学研究所のプロジェクトと連携しております。
 筆者の理解では、批判的実在論では、科学研究の対象を複雑系であるオープンな世界の中の存在としてとらえ、経験、アクチュアル、実在という存在論的区別を用いて、探求する過程として把握します。そして、単純に一定の方法に限定するのではなく、諸方法を総合し、実在を説明していくことが重要と主張します。看護など対人支援の領域でも、批判的実在論への関心が徐々に高まっており、それらの状況を分析して、この領域における課題を析出し取り組んでいく予定です。

引用文献

  • ロイ・バスカー(2006) 自然主義の可能性 : 現代社会科学批判、晃洋書房
  • 同上(2009) 科学と実在論 : 超越的実在論と経験主義批判、法政大学出版局
  • Danermakr, Berth, et al. (2002) Explaining Society: Critical Realism in the Social sciences, Routledge.

関連するプロジェクト

  • 対人援助におけるエビデンス-実践回路研究

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