生物人口学に基づいた効果的な少子化対策の研究不妊の生物人口学的解明:インターネット調査の設計と実施
少子化と不妊
日本の少子化は、20歳-30歳代女性における晩婚化および出産の先送りに加え、加齢にともなう再生産機能の老化(不妊)からも影響を受けていると推測される。少子化が大きな社会問題として認知されている一方、その背後に存在する生物学的要因に関する研究はほとんどされていない。欧米集団を対象とした疫学研究では、女性の加齢に加えて喫煙や低体重は不妊リスクを増大させることが示されている。しかし遺伝的素因や文化、生活習慣(高い低体重割合、低い性交頻度、長い勤務時間など)のことなる日本においては、女性の加齢にともなう不妊リスクの上昇は、欧米集団とは異なると考えられる。そこで本プロジェクトでは、働き方やストレス、睡眠、喫煙、などの生活習慣が日本人女性の不妊リスクに及ぼす影響を、疫学的手法を用いて、検証することを目的とした。
インターネット調査の設計と実施
2013年度は20-44歳の女性を対象としたインターネット調査を設計・実施した。インテージ社でモニター登録をしている会員のうち女性10467人に対してアンケートを依頼し、3214人から回答を得た(回収率31%)。質問票には受胎待ち時間(避妊せずかつ妊娠しないで性生活を継続している期間、1‐2年で不妊の疑い)、婦人科系疾病・生理不順など不妊リスクに関連する項目、および、睡眠、労働、喫煙、飲酒、BMI、ストレスなど生活習慣に関連する項目などを取り入れた(Slama et al. 2012)。また、受胎待ち時間に影響を与える近接要因(Bongaarts et al. 1983)として、パートナーの有無、出産・流産・中絶のタイミング、授乳時期、避妊・不妊手術の有無、性交頻度も項目に加えた。
今後の予定
2014年度以降は、インターネット調査の分析結果を国内外の学会で発表する予定である。分析では、現在の日本の性年齢別人口構成を想定したマイクロシミュレーションモデルに、不妊割合や生活習慣の情報を適用し、各パラメーターを動かした際に(例:妊娠企図年齢を2歳若くする、喫煙者割合を10ポイント低下させるなど)、不妊割合がどの程度変化するか検討する。特に妊娠企図年齢を今よりも数年若くした場合に、不妊リスクがどの程度変化するかについては、少子化対策のみでなく、女性が希望した時に子どもをもつというリプロダクティブ・ヘルスの面からも重要であると考える。
文献
- Bongaarts, J., and R. G. Potter. 1983. Fertility, Biology, and Behavior. NY: Academic Press.
- Slama, R. et al. 2012. Estimation of the Frequency of Involuntary Infertility on a Nation-wide Basis. Human Reproduction. 1489–1498.
関連するプロジェクト
- 生物人口学に基づいた効果的な少子化対策の研究