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大学を模擬社会空間とした自立支援のための持続的対人援助モデルの構築ケアコミュニティチームの目指すもの

筆者: 秋葉武(産業社会学部・准教授) 執筆: 2012年11月

活動内容

 介護者(介助者も含む。広い意味では家族介護(助)者)、家族援助ニーズに応える素人介護者(ボランティアやNPO、協同組合の組合員の活動も含む)、当事者が要援助者を支援する自助活動等の「ケア支援の在り方」は近年大きく変容しています。
 本チームは、「ニーズの多様性と支援の再構成」という視点からこうした変化の体系的な研究を行ってきました。プログラム開発、社会への実装と定着、非専門家を含んだケア・コミュニティの組織化という模擬的な社会臨床実験を実施しています。
 「生活者と当事者の視点」を尊重する援助者の在り方が模索され、生きる場(環境)としてのコミュニティによる統合力に注目した支援の視界と技法と価値を確定することを目指しています。ポイントは、「ケア・コミュニティ」の形成です。

メンバーの最近の取り組み

 チームのメンバーは、地域福祉論(主にケア者の支援)、医療政策(主に日本の医療政策の歴史)、司法臨床論(主に弁護士と臨床心理士の協働)、家族社会学(主に現代家族の動態的研究)、教育論(主に観想教育の実践)、非営利組織論(主に非制度的なケア活動研究)等々、多様なアプローチから実践的な研究を進めており、社会的現実に即した研究成果が出ることを期待しています。

私たちの研究紹介――「長寿島」で考えたこと

  私たちの研究を少し紹介させてください。私自身は非営利組織論の立場から日本、韓国の(直接、間接的に高齢者支援に関わる)NPOを研究しています。高齢化が急速に進行している日本、韓国の両国は2000年代以降、介護保険制度の施行(日本は2000年、韓国は2008年)をはじめとして高齢化福祉、ケアの「制度化」を進めてきました。同時に、両国とも専門家を主体とするケア支援の「限界」もマクロ、メゾレベルで顕在化し、NPOやボランティア団体といった社会資源の役割はさらに重要になっていると考えています。
 研究の一環で、先日鹿児島県奄美群島の一つである与論島に行ってきました。同島は「長寿の島」であり、また今日なお、高齢者が病院ではなく在宅で死を迎えることが一般的です。  
 ちなみに同島に近接する沖縄県はかつて全国一の長寿県と言われましたが、すっかり様相は変わり、平均寿命は全国でも中位に低下しています(食生活の変化等による生活習慣病の蔓延がしばしば指摘されています)。しかし、沖縄に近接した奄美群島は今日なお「長寿の島」であり続けています。奄美群島は伝統食など栄養バランスの優れた食生活が比較的維持されていることが長寿の大きな要因と思われますが、これら医学的、栄養学的アプローチに加えて、私たちは高齢者が自立的に生活するための非制度的な要素を探っています。
 与論島の元気な高齢者にインタビューを行いましたが、彼らは在宅で生活するための社会資源を確保しており、その際「農業」が重要な要素になっていることに改めて気づかされました。彼らは皆自給自足的な農業を営んでおり、「農業」は高齢者自身に良質な食生活や生きがいをもたらすだけでなく、それを媒介とした社会的なネットワーク形成、非制度的な社会資源の開拓が見受けられ、「ケア・コミュニティの形成」のヒントになります。
まだ研究として整理されている訳ではありませんが、このことを手がかりに今後更なる調査を予定しています。

 この地域では野菜、果物の自家栽培は当たり前
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