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アメリカ民主主義の垣間見旅行

筆者: 朝野浩 執筆: 2009年

 2009.1.20アメリカ合衆国第44代大統領にBarack Hussein Obama,Jr.が就任したことは,世界の警察,自由の女神像に象徴される自由主義の旗手であると自認するアメリカ合衆国が,標榜する民主主義の実験を成功させたと思ったのは私だけではないと思います。そのアメリカへ,キング牧師MartinLutherKing,Jr.が公民権運動の真っただ中に暗殺されるというまだまだ西部劇時代のままの国家が,果たしてこの実験を成し得るだろうかと思っている2008の夏の大統領選挙の真只中に視察旅行に行くことになりました。
 私が所属している日本支援教育実践学会JASENが,2007年に文部科学省研究委託『先導的教育情報化推進プログラム』の指定を受け,e-iep(Web上における保護者や関係者が共同で作成出来る個別の指導計画システム)の研究開発を行ってきました。そのためアメリカでの小学校及び高等学校でのIEPの運用実態とPCの活用状況視察を行うために,初めてのインターネットによる不安だらけのeチケットの飛行機の旅になりました。

 ご存じの通り,アメリカでは各州において学校区と呼ばれる地域ごとに教育制度や学校制度が異なっています。そのような中でも,アメリカでは障害のある児童生徒に対しては普通教育の中でインクリューシヴな教育が全ての州において行われていると思っていた私には,目の当たりに特別支援学校,特別支援学級を始めとしたオルタナティブ教育が行われ,分離教育が歴然と混在する実態に遭遇してアメリカ人の考える合理的判断や現実的対応に驚かされました。しかし,障害児者についての法制度が我が国と格段の差があり,黒人差別の撤廃を求めて始まった公民権運動の結果成立した後に制定された「リハビリテーション法第504条 1973」及び「障害をもつ人の教育法IDEA2004)」によって州が変わってもIEPを始めとしてその権利が保障されるようになっていることも,またアメリカです。
 視察の最中に感じたことは,障害の捉え方が,我が国と相当違うということです。例えば,日本商社マンの子弟のための日本語教育もSENであり,LD等の子供の教育もSENであるのです。背景にあるダイバーシティ,メイフラワー号に始まる移民による多様な民族,多様な文化,多様な生活スタイルや考え方などのを踏まえて相互の共通理解を図るために最低限のスタンダード・ルールを決めることが民主主義の原点であり,それを包括した中で障害者の権利獲得・擁護のためにスタンダード・ルールとしてのIEPが成り立っていると思いました。限定された医学モデルによる捉え方よりも日常生活上における「困り」を生きる上での障害(バリアー)と捉え,これを改善克服する手段を講じること-スタンダード・ルールこそが「差別解消=権利擁護」となると考えているのではないでしょうか。アメリカにおける民主主義とは,イギリス人の考える「対話や討論による解決」や我々日本人が考える「多数決による合意」とは違う,公民権運動の獲得・発展・展開-スタンダード・ルールの確立そのものではないかと滞在中のでき事に遭遇する度に強く思うようになりました。一週間というハードな視察旅行でしたが,サンドイッチの写真のようにスケールが大きく,包括するような教育制度が一日でも早く実現でき,障害の有る無しにかかわらず子どもたちが幸せに暮らせる日本の民主主義も成熟することを願わずにはいられない暑い夏でした。


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