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知的能力とは何なのだろうか

筆者: 竹内謙彰 執筆: 2007年

産業社会学部人間福祉専攻 竹内謙彰 教授 (専門領域は発達心理学) (写真:右)
 3年ほど前,知能検査に関する近年の研究の文献展望を行ったことがあります。その際,気づいたことの一つに,既存の知能検査が,近年とりわけ取り上げられることが多くなった軽度発達障害の「問題状況」を取り出すためには,あまり感度のよい道具ではないということがあげられます。知能検査は,ある場合にはとても役立つ道具であることも確かです。しかし,限界もまたあるのです。
 WISCなどの知能検査を創案したことで知られる知能研究者ウェクスラーは,知能を「目的的に行動し,合理的に思考し,能率的にその環境を処理しうる総合的・全体的能力」と定義していますが,この定義は,知能を現実的な適応能力とみなす考え方です。しかし,実際の知能検査は,そうした適応能力を必ずしも的確には測っていません。
 通常の発達を遂げた人に対しては,測定結果と現実への適応がある程度一致すると言えるかもしれません。しかし,たとえば自閉症を含む広汎性発達障害の人たちでは,測定された知能と現実生活での適応能力とが,一致するとは言えないのです。実際,自閉症の就労と知的能力との関連を見た10年ほど前のある調査研究では,知能のレベルで見たときには,障害が「重い」と見られる自閉症者の方が,知能が「正常」範囲にある自閉症者よりも就労継続者の割合が多いという結果を示しているのです。「知的能力」が比較的高い自閉症者の示す困難は,やはり対人関係にかかわるものが多いのですが,それとともに,自分で判断することが困難であったり,同じ誤りを繰り返したり,同時並行で仕事を進めることができなかったりといった,仕事の能力そのものの問題としても現れているのです。
 今年の4月に立命館大学に赴任してきてから,「あひるくらぶ」という療育グループの活動に参加するようになって,一筋縄ではいかない知的能力と適応との関係について,あらためて思いを巡らすことが多くなりました。おそらく,これから自分が取り組むべき研究テーマの一つになるだろうと感じています。

写真の説明:ハノイ(ベトナム)の有名なコーヒー店の前で(2007年9月)
ちなみに,ハノイに行ったことと,本文とは関係がありません。


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