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いばらきコホートプロジェクト子どもたちの「みて」から始まる自己表現

筆者: 廣瀬翔平(総合心理学部 助手) 執筆: 2019年01月

子どもたちからのアピール

 私は,子どもたちのコミュニケーションの特徴,それらが年齢に伴って,どのように変化するのか,ということを研究テーマにしています。そのため,研究活動として,保育園や幼稚園での子どもたちの活動に紛れ込みながら観察を行なっています。子どもたちと関わる中で,「先生,みてー」とよく声をかけられます。声をかけられた私が,子どもに視線をやると,ある時は,着ているシャツや履いているクツをアピールしてきます。またある時には,なわとびを飛ぶ姿や鉄棒を回る姿をアピールしてきます。このような「みて」から始まる子どもたちの自己表現は,とても日常的な出来事です。今回は,自己の発達と「みて」から始まる自己表現の可能性についてご紹介します。

自己意識の発達

 では,果たしてこの「自己」とは,どれくらいから発達するのでしょうか? 自己の発達ついての興味深い研究があります。それは,鏡像認知課題(Amsterdam, 1972; Lewis & Brooks-Gunn, 1979)と呼ばれるものです。このテストでは,まず子どもに気づかれないように鼻の頭にシールを貼ったり,口紅でしるしをつけます。そして,子ども鏡の前に立たせて,自分の姿をみせます。その時,子どもがどのような行動をとるのかを観察します。もし大人であれば,鏡で自分の姿をみた時に鼻にシールや口紅がついていれば,鼻に手をやります。これは,自分の身体を理解しているため,鏡に映っているのが自分の姿とわかるからです。では,子どもたちはどうでしょう? 実験の結果,1歳前後の子どもは鼻の印を触ったりするといった動作はみられません。しかし,1歳半から2歳前後の子どもでは,手を鼻にやる動作がみられます。このことから1歳半から2歳前後になると自分の身体についての理解ができるということがわかりました。さらに,また別の研究から,このような自己認知の発達と同時期から3歳頃にかけて,「自尊心」や「恥」といった感情がみられるようになることもわかっています(Lewis, Alessandri, & Sullivan, 1992)。

自分を表現し,他者とつながる

 以上のような,1歳半〜2歳頃にかけて自己意識が発達すると自己主張をたくさん行うようになります。これがイヤイヤ期につながります。さらに3歳,4歳と年齢が上がると子どもたちの自己主張性は高くなります(柏木,1988)。その発達の中で,「みて」ときっかけに自己表現することが増えてきます。私の観察した印象的なエピソードをひとつ例にあげます。ある子どもが,クレヨンの箱の蓋を,クレヨンの入っている箱と垂直になるように立てて,クレヨンの入っている箱を指でカチャカチャし始めました。これは,クレヨンの箱をノートパソコンに見立てて遊んでいたようです。少し遊んだ後,隣にいた友達に「みて」といい,行なっていた見立て遊びをみせました。それをみた友達は,そのノートパソコンの見立てを真似して,顔を見合わせて一緒に笑顔で遊び始めました。このように「みて」をきっかけにした自己表現は,その時の遊びや感情を他者と共有し,遊びやコミュニケーションを広げていく役割があるように私は考えています。

引用文献

  • Amsterdam,B. (1972). Mirror self-image reactions before age two. Developmental Psychology, 5, 297-305.
  • 柏木 惠子(1988). 幼児期における「自己」の発達‐行動の自己制御機能を中心に. 東京: 東京大学出版会.
  • Lewis, M., Alessandri, S. M. & Sullivan, M. W. (1992). Differences in Shame and Pride as a Function of Children’s Gender and Task Difficulty. Child Development, 3, 630-638.
  • Lewis, M. & Brooks-Gunn, J. (1979). Social Cognition and the Acquisition of Self. New York: Plenum Press. 

 

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