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大学のキャリア支援を支援する多様な生き方と人権を尊重するキャリア教育に向けて

筆者: 妹尾麻美(立命館グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員) 執筆: 2018年09月

 1990年代後半の不景気を契機に、日本では「キャリア」という概念が一般に知られるようになった。この概念は、どのような仕事がしたいか、どのような生き方を目指すのか、を指すものして理解されている。概念の普及については、2017年7月の人間科学のフロントで触れているので、そちらをご覧いただきたい。 

 この言葉は、たしかにこうした含意を持つ。しかし、諸外国の研究を整理すると、異なった側面も言及されていることに気がつく。「キャリア」という概念は、どのような生き方を望むかを考えることのみならず、自らそういった生き方を歩むことができるよう社会に働きかけることも意味するのである。むろん、諸外国の研究を参照すればこうしたことは記述されている。だが、わたしは2018年6月(執筆時の1ヶ月前)国際応用心理学会への参加をきっかけに、このことをより考えるようになった。この学会で、わたしはカウンセリング心理学分野におけるキャリア・カウンセリングについての発表を多く聞くこととなった。蛇足にはなるが、日本では臨床心理学でカウンセリング実践の研究がなされているのに対し、国際的にはclinical psychologyとcounseling psychologyは異なる分野とされている。

 カウンセリング心理学では、宗教的な違い、差別、貧困、こうしたことを踏まえたキャリア・カウンセリングが研究の主題となっていた。「人権」「社会的正義」「デーセントワーク」など日本では議論の対象となっていない、一見働くことと関係ないようなことも対象とされている。こうした問題は、残念ながら日本におけるキャリア・カウンセリングに関する研究の対象となってこなかった。

 しかし、グローバル化の流れにより、日本以外の諸外国では、多様なバックグラウンドを持った人とともに、どのように働き、どのように暮らし、どのように生きていくのかを考えることが喫緊の課題となっている。ここには「人権」や「健康」の問題が不可避に関わってくる。

 これらを考えたとき、実は日本もこうした現状から目をそらすことができないことに気がつく。日本で働く外国人は、過去5年で2倍に増えた。過労を原因としたうつ病や自殺も問題となっている。研究の対象とすべき現象が、すでに生じているのである。大学生であれば「横並び」で就職活動をし、一生その会社に勤めると考えがちだが、そういう人たちばかりではない。多様な人々とともにどのように働くのか、生きていくのか、そのためにどのような制度やしくみが必要なのか、心理と日本社会の接点を再考する時期にきているだろう。日本的雇用慣行を前提とした今の就職活動、それを前提にしたキャリア・カウンセリングは限界に近づいている。わたしは、この課題に人間科学のフロントランナーとしてチャレンジし続けたい。

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