FROM FOREIGN RESEARCHER

周 念麗 氏(中国 華東師範大学 就学前教育と特殊教育学院)
 「自閉症児の発達援助に関する考え」

 中国で自閉症(autism)について言及され始めたのは1980年代の後半であり,高い関心が持たれるようになったのは,ごく最近のことである。現在,中国において,自閉症スペクトラムの範囲に入っている子ども(2-18歳)の人数は,約18万人に達していると推定されている。しかし,自閉症がどのような発達障害であるのか,自閉症スペクトラムをどの障害の種類として考えればいいのか,という結論は,未だに出されていない。そして,支援のシステムも明確には構築されてはいない。私たちにとって,このような膨大な人数にのぼる自閉症スペクトラムの子どもたちへの心身発達の援助は,極めて大きな課題である。
 自閉症スペクトラムの子どもの心身発達への援助は,次の2つのアプローチから実施できると考えられる。1つは早期発見であり,もう1つは早期介入である。

早期発見と早期介入の重要性
早期発見
 早期発見とは,1歳―2歳半のハイリスク乳児を対象とするものである。
 これまで,自閉症の診断は2歳半になってから可能と言われてきた。実際の状況を調べてみると,殆どの親が子どもの自閉的な傾向に気付くのは大体3歳すぎで,発話ができないという現象によるものである。そのような遅い時期に発見されることは,早期介入に不利な面をもつことは言うまでもない。 早期発見を可能にするためには,1歳児の健康診断の時から,早期発見に関連する診断尺度や観察シートを使用すべきだと思われる。私たちは,既存の乳児の発達診断や自閉症スペクトラムのチェックに使われている観察チェックリストなどを参考にして,乳児の発達段階にふさわしい早期発見の尺度の開発を計画している。
早期介入
 早期介入は,自閉症スペクトラムと診断された2歳半から5歳までの子どもを対象にするものである。早期介入は,早期心理的治療と統合保育の2つから考えると良い。

 早期心理的治療は,自閉症スペクトラムの子どもに対する個人的な発達援助である。乳幼児の心理発達の特徴に合わせて,箱庭療法,精神統合療法,来談者中心主義の遊戯療法などの実施を試みたい。
 統合保育は,自閉症スペクトラムの子どもを集団の中に入れ,仲間同士のグループのなかで発達援助を与える方法である。統合保育に関しては次のようなモデルを提唱し,それに基づいて実施しようと考えている。

統合保育の体系モデル
  統合保育の体系モデルとは,幼稚園のなかで園長をリーダーとして,障害児がいる特殊クラスの担任を中心に,全保育士が1つのチームとなる保育システムをいう。このモデルにおける園長・特殊クラス担任および全保育士の任務は,それぞれの次の通りである。
1) 園長の任務
  園長は,全体の保育士に統合保育の意識を強くもたせることが,その主要な任務である。特殊クラスの担任だけではなく,すべての保育士が自閉症スペクトラムの幼児に対する十分な知識をもった上で,園全体として統合保育を行なえるようにする。   次に,統合保育の実施方針を提示する方向を把握する。この子どもたちは多様なニーズをもっており,それに応じるカリキュラムや保育実践も多様でなければならない。園長は,そのための具体的な指導を行なう。
2) 特殊クラスの担任の任務
  まず,園長先生の指導によって,保育現場で統合保育を行なう。
  次に,自閉症スペクトラムの幼児に関するさまざまな情報を全保育士に伝え,チームが円滑に統合保育を行なうことができるように努める。
3) 全保育士の任務
  まず,自発的に統合保育に関する理論と方法を学ぶ。
  次に,頻繁に特殊クラスの担任から在園する自閉症スペクトラムの幼児の情報を得,それに対応できる姿勢をもつ。

統合保育の形態モデル
  このモデルは,保育現場で自閉症スペクトラムの幼児に対する多様な保育形態を想定したものである。主な内容は,集団保育対個別保育,統一保育対自由保育,それぞれの組み合わせによる保育である。主に4つの統合保育のかたちである。
1)「集団―統一」型の保育
  この形態の保育は,健常児と自閉症スペクトラムの幼児との間に,相互作用をもたせる。これは健常児に思いやりと同情心を育てることにも役立つ。この形態の保育は,共同遊びを中心にしている。
2)「集団―自由」型の保育
  この形態の保育の主旨は,自閉症スペクトラムの幼児に,みんなと一緒という雰囲気を感じさせることが目的である。集団の活動であっても,もし自閉症スペクトラムの幼児が全体のペースに合わせることが難しいようならば,自由な活動を容認する。
3)「個別―統一」型の保育
  自閉症スペクトラムの幼児が,統一的な活動に参加したいが心身の条件によって制限される場合,この形態の保育を行う。すなわち,統一された保育内容を,自閉症スペクトラムの幼児の実情に合わせ,量的あるいは時間・空間を調整して,保育を行なう。
4)「個別―自由」型の保育
  自閉症スペクトラムの幼児が,どうしても他の子どもと一緒に活動することができない場合,この形態の保育が行なわれる。ただこの形態の保育は,仲間関係を大事にするという統合保育の目的と合致しない要素があるので,慎重に用いねばならない。

統合保育の連携モデル
  このモデルの核心は,各団体の協力で自閉症スペクトラムの幼児及び親のサポートをすることである。 このモデルは,幼稚園と自閉症スペクトラムの幼児の家庭や地域および医療機関などが,互いに幼児の情報を共有し,それぞれの立場から責任をもつとともに,良好な協力関係を作る。

あとがき
  現在、筆者は日本国際交流基金のフェローとして、名古屋大学の人間発達研究科心理臨床の蔭山教授のもとに日本の「統合保育」に関連する理論と実践方法を学んでいる。 1991年から1995年までお茶の水女子大学の心理学部で留学していた。その時代からの恩師である藤永 保先生と障害児特に自閉症児の早期発見と早期介入に関する共同研究を行うと予定している。 東京大学大学院教育研究科の渡部 洋先生指導教官の元に心理測定に関する方法を勉学し、1998年に東京大学の教育修士の学位を得てから帰国した。習った心理測定の方法を用いて、上に述べた早期発見のために尺度を開発しようと計画している。 2004年にアメリカのArizona State Universityの Nancy Esienberg 教授及びGeorgetown University のToby Long教授のもとで乳幼児の感情発達と自閉症児の早期介入に関する内容を学んでいた。 自閉症についての理解は着実に進んでいるが、自閉症児の発達への援助をどうするかについては考えるべきことが多い。今後とも様々な国の様々な人たちと協働していきたいと考えている。