02 ケア・コミュニティチーム

リーダー:斎藤 真緒(産業社会学部准教授)
 本チームは、さまざまなヒューマンサービスにかかわるニーズの多様化と、それを支援する介護(介助)者の多様化双方を射程にいれて、「ニーズの多様性と支援の再構成」について体系的な研究を実施しています。具体的には、各研究テーマに即したプログラム開発、社会への実装と定着、模擬的な社会臨床実験を行うことを通じて、従来の専門家主導の単線的なケアではなく、「自立的共同行動」「決定支援」「行動援助」「支援制度デザイン」「当事者中心」「権利擁護」等などの関係性に係留した「コミュニケーションデザイン」の構築、非専門職も含めた新しい「ケア・コミュニティ」の形成を目指します。
 具体的な調査研究テーマは、以下の通りです。
  • 男性介護者当事者の組織化に関するアクションリサーチ
  • 介護者支援に関する理論研究
  • 介護者支援制度の国際比較
  • ミニチュアの舞台と人形を用いて即興劇を展開する「投影ドラマ法」の心理療法としての技法の精緻化
  • DV加害者に対するアプローチ
  • 非行、虐待、DVなど、「法」と「臨床」の交差領域における問題解決のためのアプローチ
  • 妊娠・出産期のDV-医療現場における被害者支援と予防
  • 日本語を母語としない子どもと保護者への支援〜保育所を中心として
  • 障害者の居住支援研究、障害者の雇用制度研究
  • 日本のがん医療政策及び社会保障制度の検討-がん患者とその家族の医療保障及び生活保障
  • 対人援助職者のための観想的ケアリングのプログラム・デザイン-ホリスティック/インテグラル・アプローチ
  • ターミナル・ケアと感情労働
  • 支援のための非専門家研究プログラムの開発および地域との連携
  • NPOによるケア・コミュニティの制度設計に関する日韓比較研究
  • 計量分析を通じたサポートネットワークについての実態の解明
チーム参加メンバー 所 属 ・ 職 名 専 門
斎藤 真緒 産業社会学部・准教授 家族責任、質的調査、男性介護者、デートDV、ユースサービス
中村 正 産業社会学部・教授 社会学・社会病理学、修復的司法、男性性、ジェンダー、加害者対策、臨床社会学
松田 亮三 産業社会学部・教授 比較医療政策、政策分析、社会疫学、地域保健、医療政策
津止 正敏 産業社会学部・教授 社会福祉・地域福祉・ボランティア、男性介護者支援
廣井 亮一 文学部・教授 司法臨床、非行臨床、家族臨床
中川 吉晴 文学部・教授 ホリスティック/インテグラル・アプローチ、ホリスティック教育
林 信弘 文学部・教授  
崎山 治男 産業社会学部・准教授 社会問題論、感情社会学
岡本 直子 文学部・准教授 臨床心理学、心理療法、芸術療法、表現療法
村本 邦子 応用人間科学研究科・教授 臨床心理学、トラウマ心理学、女性学、ジェンダー、コミュニティ心理学
滝野 功 応用人間科学研究科・教授 比較心理療法論、集団力動論, 臨床心理学
筒井 淳也 産業社会学部・准教授 社会学(理論・計量分析)、家族社会学、ワーク・ライフ・バランス
峰島 厚 産業社会学部・教授 障害者福祉、自立、生活、発達
秋葉 武 産業社会学部・准教授 社会的企業論、NPO・NGO論 (非営利組織論)
棟居 徳子 神奈川県立保険福祉大学保険福祉学部・講師  
松島 京 近畿姫路大学教育学部・講師  

2010年度活動報告
 ケアコミュニティチームでは、ケアとコミュニティをキーワードとして、それぞれのメンバーが実証的・理論的研究を行った。
領域別の実証的研究としては、主として以下のような成果を得ることができた。
(1)子育て支援
 「子どもと家族の法と臨床」をメインテーマとして研究に取り組んだ。具体的な研究活動のひとつとして、弁護士と臨床心理士による実質的な協働体制による、子どもと家族に対する支援の実際について調査した。
姫路市内の保育所および姫路市子育て支援室を訪問し、姫路市内における就学前の外国につながりのある児童と保護者の現状把握を行った。またかながわ国際交流財団を訪問し、外国につながりのある児童生徒を対象とした教育相談や教育委員会の取組についての取材を行った。
(2)虐待・トラウマ
 虐待や暴力被害が女性・子どもに与える影響と支援についての研究、戦争によるトラウマの世代間連鎖と和解修復に関する研究、村上春樹の文学に見る戦争トラウマの痕跡に関する研究、法と心理の協働に関する研究を行い、研究発表を行った。
(3)医療政策
 日本の医療政策の展開について、特に2006年医療改革法の影響と意味づけについて検討した。多くの諸課題に直面し、地方自治・社会保障をめぐる政治の中で、医療政策の財政と責任をめぐる政治が進展している様を分析した。
(4)男性介護者・家族介護者支援
 ヨーロッパを中心とする家族介護者支援政策に関する研究を行い、日本での介護者支援の方向性について検討した。また、男性介護者の介護生活実態を把握すべく、介護者に対するアンケート調査を実施し、介護負担や仕事との両立の困難について具体的に明らかにした。

方法論および分析枠組みにかかわる理論的な研究成果は以下の通りである。
(5)観想的アプローチ
 本年度は対人援助職者への観想的アプローチの研究をおこない、坐禅実習の継続という形での実践的研究、および仏教をはじめ関連文献の研究をおこなった。成果として英文図書への寄稿、海外の学会での発表がある。
(6)投影ドラマ法
 表現がもつ治療的意味について量的研究を行った。また、表現がもつ治療的意味として報告者が研究してきた「投影ドラマ法」の治療的可能性に関する論文を、応用人間科学研究科英語論文集に執筆した。加えて、新たな研究テーマとして、心理臨床学の立場からの子育て支援の可能性について探索すべく、文献を中心とした研究を行った。
(7)心理主義化
 日本における心理主義化の動向について、主として雑誌記事を元にした分析を行った。その中で、自己責任原則と心理学的知との併走関係が強化されつつ支援の手法に取り込まれることを見いだした。

2011年度活動報告
 さまざまなヒューマンサービスにかかわるニーズの多様化と、それを支援する介護(介助)者の多様化双方を射程にいれて、「ニーズの多様性と支援の再構成」について体系的な研究を実施した。
 領域別の実証的研究としては、主として以下のような成果を得ることができた。
①男性介護研究
 調査を通じた働く介護者のニーズの分析
 イギリスにおける介護と仕事との両立支援策および企業での実践プログラムに関する文献研究
②デートDV予防プログラムの開発
 高校での予防プログラムの開発実践
 デートDV予防啓発のための映像制作
③虐待・トラウマ
 虐待や暴力被害が女性・子どもに与える影響と支援についての研究
 トラウマの世代間連鎖の観点から、女性や子どもへの暴力と戦争加害との関連についての研究
 トラウマの世代間連鎖を超えていくための方法論について研究
 村上春樹の文学に見る戦争トラウマの痕跡に関する研究
 法と心理の協働に関する研究
 災害後のコミュニティのトラウマとケアに関する研究
④医療政策
 日本の医療政策の展開に関する実証的研究
 医療政策と財政に関する研究
⑤介護保険制度の日韓比較
 介護領域で活動する日韓の社会的企業
 韓国におけるケア労働者の人材、とりわけ朝鮮族等の外国人ケア労働者
⑥家族調査
 全国家族調査の分析に基づく家事負担と親子関係の感情福祉

方法論及び分析枠組みに関わる理論的な研究成果は以下である。
⑦「投影ドラマ法」の心理臨床場面適用に向けた既存の技法(箱庭療法)との比較に着目した調査とデータ収集