01 心理バリアチーム

リーダー:東山 篤規(文学部教授)
 ヒトの心的機能を考えたとき、高齢者・障害者と健常者との間には、明確な境界が認められるものもあれば、境界がはっきりせずに段階的に移行するものもあるが、後者の事例は、かなり広い範囲にわたって認められ、それゆえに日常的に重要な現象と考える。たとえば、若いときに比べて、徐々に視力や視覚記憶が落ちてきたとか(知覚)、転びやすくなったとか(行動)、若い人の早い会話についていけなくなったとか、早とちりが多くなったとか(記憶と理解)、年を経るにしたがって感動することが減ったけれども涙もろくなった(感情)というようなことをよく聞く。こういう現象が、どういう機制によって生じているのかを明らかにし、正しい理解を深めることは、人間の本生を知る作業であるとどうじに、自覚的に豊かな老後を過ごすために有益なことである。  このチームでは、重篤な事例に限らず、この種の軽微な障害(バリアー)を含めて、知覚、記憶、推理、行動の各分野において、我々が直面している心的機能の変調について考察する。知覚の分野では、視覚パターンや平衡感覚の研究を行い、記憶の分野では、援助者が与える指示の理解や行為の適切性の研究を行い、推理の分野では、常識的推理を逸した事例を含めた推論過程の統合的研究をおこない、行動の分野では、体重のコントロールや不器用児の機器(はさみ)の操作、電子的ネットワークの利用に関する研究を行う。
チーム参加メンバー 所 属 ・ 職 名 専 門
尾田 政臣 文学部・教授 ヒューマンインターフェース、認知科学
北岡 明佳 文学部・教授 知覚心理学、実験心理学、神経生理学、アート&デザイン、幾何学的錯視
服部 雅史 文学部・教授 認知心理学、思考心理学
東山 篤規 文学部・教授 実験心理学、知覚
藤 健一 文学部・教授 動物における実験的行動分析
星野 祐司 文学部・教授 認知心理学

2010年度活動報告
 日常的活動の中で遭遇するバリア(障害、つまづき)となるものについて、知覚・認知・行動の観点から研究し考察した。
錯視:
傾き錯視と静止画が動いて見える錯視の関係に関するモデルを提唱し、それを支持する証拠を得た。後者の錯視のうちの特定の種類は高齢者に錯視量が少ないという仮説を確認した。
奥行き:
鏡に映じた写真画の奥行きは、じかに写真を見たときに比べて、広がるという事実を確認した。 推論:常識的推理を逸したケースを含む多様な個人差と、見かけ上は異なるさまざまな課題における推理過程を統合的に捉えるための確率モデルの構築に向けて研究した。
記憶:
音韻によってもたらされる順序の記憶について実験を行った。また、音楽刺激を用いて、音韻の保持の基盤になると考えられる聴覚的記憶に関する実験を行った。
カテゴリ化:
e-healthcareに関してカナダと日本において研究した。本来カテゴリ化に寄与しないはずの要因のカテゴリ化に及ぼす影響、ならびにカテゴリ化判断に及ぼす確信度と典型性の違いについて検討した。
体重制御:
ハトを用いて体重変動にかかわる環境要因について検討した。検討した要因は毎日の給餌と給水環境であり、それらの効果を長期間にわたる時系列データとして分析した。

2011年度活動報告
 高齢者や障害者はもちろんのこと健常者の知覚・認知・行動の諸過程において,障害的にはたらくもの(バリア)を見出し,そのはたらきを検討した.具体的には次のとおり.
知覚:
①「蛇の回転」錯視と年齢の関係を調べた.1000名以上のデータから,この錯視の量は年齢が高くなると有意に減少することが確認された.しかし,この錯視は,高齢者の半数においてよく生じ,若年者には起きない人がいた.
②風景の明るさや対象の方向の知覚が,視覚だけでなく体性感覚(姿勢)によって大きく影響されることを明らかにした.
記憶:
音韻情報によってもたらされる順序の記憶について実験を行った。またメロディーやリズムを含む刺激を用いて,聴覚情報の記憶に関する実験を行った.これらの実験から,日常生活における音的手がかりの利用について考察した.
推理:
常識的推理を逸したケースを含む推理の個人差を説明するため,三段論法推論の確率モデルを構築した.さらに,確率判断(基準率錯誤や属性フレーミング)と論理的推論(条件文推論)の共通性について概念化を行った.
行動:
①ソーシャルネットワークサービス(SNS)を用いた健康維持管理法について検討し,初心者がSNSの利用を開始してもすぐに利用停止状態になることを明らかにするとともに,その改善法を提案した.
②ハトの体重変動に及ぼす日長時間の効果を測定するために,準自然場面を利用した長期連続実験により,摂食行動、摂水行動の定量的測定を行っている.また,動物行動実験における実験装置史研究の一環として,数種類の古典的装置の再現・再構成を試みた.