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「対人援助学の構築」に向けて -ごあいさつに代えて-

  対人援助すなわち「他者をたすける」という行為は、「うばう」「あらそう」などと同様、人類の発生以来あまねく地球上で行われてきたものと思われます。そして、近代以降、科学の名のもとにこの「たすける」という行為に関わる様々な学範(ディシプリン)が勃興し今日に至っていることも論をまたないでしょう。人は労働に伴う苦痛から機器や技術の発明によって助けられ、また疫病や疾病からも医学や工学の発展により解放されつつあります。一方、人が人を動かし動かされる社会的行為において、そのような進歩があったかと言えば多いに疑問です。こうしている今も、世界中で「うばう」「あらそう」すなわち「罰的」な操作によって人を動かす行為は枚挙に暇がありません(Skinner, 1990,「罰なき社会」行動分析学研究,5(2),参照)。
  立命館大学における「対人援助(ヒューマンサービス)の科学」をテーマとした組織的研究は、1999年教育科学研究所(現在の人間科学研究所)の小さなプロジェクト研究(B1:「ヒューマンサービス研究会」)に始まり、2000年度から「ヒューマンサービス/対人援助科学研究会」と名を改め、さらにそれを一つの核として文部省(当時)の学術フロンティア推進事業「対人援助のための人間環境デザイン研究」として学部を超えた大きなプロジェクトとして発展するに至りました。
  2005年度からは、立命館大学における「対人援助の科学」は、オープンリサーチセンター整備事業「ヒューマンサービス・リサーチセンター」を中心に構築されていくことになります。今回は、「対人援助学」という新しい学範の可能性を、大学教学との連携や海外研究者との協力など、従来とは質的に異なる新たなフェイズの中で追求することになります。   「対人援助=ヒューマンサービス」は、一種の職業的行為を示すものと位置づけられてきました。従来、それらは相手を「知る」「計る」ことを精緻に行う「認識の科学」の単なる応用、あるいは極端な場合には科学の対象とはならないものと考えられる傾向もありました。しかし、医学や工学の基礎となるような「知る」「計る」といった「認識の科学」と、「たすける」という「実践の科学」とでは、実は距離のあるものであることが次第に明確になってきました。実践的な立場から端的にいえば、「知る」ことは必ずしも「たすける」にはつながらないということです。また、同じ実践的な内容を持つ「教える」「治す」といった行為が「たすける」の主要な内容としてとらえられる時期もありました。しかし、それらは、油断するとすぐに「うばう」「あらそう」にすり替わったりその手段となってしまいます。
  「たすける」という実践的行為について改めて考え直す時期がきていると思います。「教える、なおす」とも、そしてもちろん「知る、計る」とも異なる、人が相互に共生するための社会的関係そのものを対象とし、その社会的関係の成立と維持を実現するための仕組みを探求する必要があります。その探求は、狭い職業的技法としてのみでなく、社会のありようそのものにも言及していくことになります。「対人援助学」のめざす最終的ミッションはそのようなものであると考えています。