『日本ベトナム障害児教育・福祉研究2 インクルージョンをめざして』(日本ベトナム友好障害児教育・福祉セミナー実行委員会 編)

日本ベトナム友好障害児教育・福祉セミナー実行委員会 編
文理閣

目次

(1) 開会の言葉 ダン フィン マイ
(2) 第2階日本ベトナム友好セミナー“障害児の未来のために” ディン クァン パオ
<論文>
(5) 発達保障とインクルージョン 加藤直樹
(11) インクルージョン教育は夢か現実か グェン ティ ホァン イェン
(16) 交流・共同教育・統合教育-インテグレーションからインクルージョンの流れのなかで- 藤井 克美
(21) ベトナムにおけるインクルージョン教育-これまでの経験と困難、今後の傾向- レ ヴァン タック
(30) 障害児の教育-養育に関する今後の総合的な政策の方向性について- ダン バー ラーム
(33) 障害児と健常児が共に学ぶクラスの授業内容とその組織運営についての経験 ダン アン トゥ
(37) 障害児に対する総合教育と社会統合実現のための政策と法律 グェン・ハイ・ヒュー
<報告>
(49) 日本における障害児教育教員養成制度の特徴と課題 黒田 学
(53) 日本におけるトランジション・サービスの課題 坂井 清泰
(57) 障害児・家族の地域における生活実態調査の中間報告 津止 正敏
(61) 知的障害児学校における「交流教育」の実態報告 中原 一精
<学生報告>
(71) ハノイ師範大学障害児教育学部における学び ディン ティ トゥ フン
(73) 障害児の放課後実態と学生の学びについて-障害児の放課後・休日調査から- 小笹 蓉子、秦 易子
(76) 大学生活における障害学生の姿 吉間 涼子、中垣内 さや香、仲 春奈
<講演録>
(81) ベトナムにおける障害児と障害児教育の現状と課題 ディン クァン バオ
(89) ベトナムにおける教員養成大学の実情について ディン クァン バオ
<エッセイ> (92)
岩本彩子、往蔵いずみ、小笹蓉子、吉間涼子、久保田裕子、坂口愛美、竹下泉、戸田実穂、中垣内さや香、秦易子、籔博美、山岸枝里子
<資料> (100)
1 労働・社会短期大学紹介/2 ベトナム障害児教育・福祉セミナー体験記/3 日本ベトナム友好障害児教育・福祉セミナーとは/4 ツアー説明会の記録/5 セミナー参加者一覧
<ベトナム語版 セミナー要項集> (114)
編集後記

関連企画:ヴェトナムの障害児教育における専門教員養成コース支援事業

プロジェクトの概要

支援期間 2002年9月〜2004年8月
現地協力機関 ハノイ師範大学
事業の目的 障害児教育分野における専門教員養成への支援を行い、黎明期にあるベトナム障害児教育の立ち上げ期の支援を行う。
活動内容 立命館大学の中心的な支援業務内容

  1. 障害児教育分野の専門教員養成のための講師陣の派遣
  2. 講義録および参考テキストの編集・作成
  3. 講義用の授業教材の開発
  4. ベトナムで利用できる障害児分野の教材・教具開発

本プロジェクトはベトナム南部地域の障害児教育専門教員の養成にあたるため、ベトナムのホーチミン市で実施する。ベトナムの現職教員および障害児教育専攻学生を対象とし、プログラム修了者にはハノイ師範大学から障害児教育分野専門教員養成課程認定の学士号が授与される

ベトナムの障害児の現状

障害者数

  • 障害者児は総人口の1%(ベトナムの総人口は、約7500万人)とされている
  • 障害児は子ども人口の約3%と見られる
  • 障害のある子どものうち、31%が重度の障害をもつものと考えられている
  • ホーチミン市の障害児数は47,986人(視覚障害者5,758人、聴覚障害7,000人以上、知的障害22,000人以上)

第10回日越友好障害児教育・福祉セミナー Le Minh Haさん(教育訓練省幼児教育局・副局長)の報告より

ベトナム社会と障害児

子どもの障害が恥ずかしくて、親が見せないという誤解がある。この問題の原因は障害に対する科学的な認識が通じない、情報が足りないということ。

失望感を持ち、「運命が悪い」「どうでもいい」と考えがちである。

知的障害児の場合、社会自立の見通しが立ちにくく、身体障害に比べ家で抱え込むことが多いと思われる。

ベトナムにおける初等教育と障害児教育

義務教育は全国的には5年制の小学校までで、ハノイ、ホーチミン、ダナンなどの大都市部では4年制の中学校まで義務化されている。政府はできるかぎりはやく全土で中学校の義務化をはかりたいと考えている。

5年制の小学校においても、まだ障害児教育は義務化されていない。しかし近年ドイモイにより豊かになってきたこともあり、障害をもつ子どもたちも就学しはじめているが、障害児の就学率は推定で5-10%ぐらい。中学校課程(前期中等教育)の義務化と障害児の就学率の向上がベトナムにおける義務教育の重点課題である。

障害児教育推進の障害

  1. 障害児教育の訓練を受けた教員がいない
  2. フランス式の課程制

障害児教育の推進のためには、障害児学校、障害児学級、一般のクラスでの受け入れの3つが考えられるが、ベトナム政府は2010年までに70%の就学率に引き上げたいと国際的に表明しており、そのためには一般クラスでの受け入れが最大となる。

そうすると全ての学校が障害児を受け入れられるように、少なくとも各学校に障害児教育のリーダーの配置が必要。

2001年にハノイ師範大学、2003年にホーチミン師範大学にそれぞれ障害児教育学科が作られたが、需要に間に合わない。各地の師範大学に障害児学科の立ち上げと、現職教員の再教育が決定的に重要となっている。

教室の様子


開校式
真剣にレクチャーを受ける受講生たち

発達診断の実習風景

戦争証跡博物館での屋外実習

地元テレビ局のインタビューを受ける荒木教授

ホーチミン市内の障害児学校での訪問実習

受講生集合写真

日越代表者紹介

立命館大学産業社会学部
教授 荒木 穂積
障害児の療育や発達診断のプログラム開発に取り組んでいる。藤本文朗先生から代表を引き継ぐ。
ハノイ師範大学

障害児教育センター
所長 Nguyen Thi Hoang Yen
聴覚障害児の早期教育に取り組んでいる。ベトナム障害児教育の中心メンバーの一人。

関連プロジェクト

第12回 日越友好障害児教育・福祉セミナー 2003年8月19日〜22日

 「第1次アジア太平洋障害者の10年:1993-2002」(First Asian and Pacific Decade of Disabled Persons,1993-2002)の最終年2002に、私たちのセミナーも新しい歩みを開始した。
今年実施された第12回セミナーには多くの大学からの参加があった。ベトナムの研究者・学生・実践者らの討議・交流を展開した。
ベトナムの障害児教育における専門教員養成コース支援事業の関係者もこのセミナーに協力・参加した。
日越友好障害児教育・福祉セミナーは、国際障害者年(1981年)を継続して取り組むために設けられた「国連障害者の10年:1983-1992」(United Nations Decade of Disabled Persons:1983-1992)の最終年にあたる1992年にホーチミン市でスタートし(当時の代表は、藤本文朗滋賀大学教授)、今回で12回目を迎えた。「対等・平等・友好の原則」に基づき、1992年から2001年までの10年間、ホーチミン市およびその周辺地域の障害児教育・福祉関係の教師、障害者本人・父母、専門家の人たちと実践、研究分野で交流を深め、共同調査に取り組んできた。この間に参加した人は、延べ人数にすると日本側400名余、ベトナム側2,000名余にのぼる。そして、このホーチミン市での貴重な交流を基礎にして、2002年からはセミナー開催地を首都ハノイに移し、これまで以上に研究交流を深めるセミナーを開催している。
「第2次アジア太平洋障害者の10年:2003-2012」(Second Asia and Pacific Decade of Disabled Persons, 2003-2012)のスタートの年2003年、セミナーは12回目を迎えた。今回のセミナーの特徴は、以下のようなものである。第1に、セミナーと並行して日本・ベトナム双方の学生が主体となる「学生セミナー」を新たに設け、両国の学生たちが新しい発想や視点で研究した成果を報告しあい、単なる交流から1ランク上のゼミを実施し、今後の学習に生かせるようにしたこと。第2に、セミナー全体の統一テーマ(インクルージョン」のもとに、これまで以上に深い研究実践交流ができるようにしたこと。第3に、今回はベトナムの障害をもつ子どもの保護者の方々からお話を聞かせていただく場を設け、ベトナムの実態をより詳しく知ることができるようにしたこと。
私たちのセミナーは、観光だけでは知ることが難しいベトナムの抱えている様々な問題を知ると同時に、障害児教育・福祉を通して交流を深めようとするものである。一般に「遅れた」状況にあると言われるアジア諸国の障害児教育や社会福祉から私たちが学ぶことはたくさんある。そのことをセミナーの参加者たちは肌で感じとったようだ。
 日本とベトナムはともに大海を要する南北に細長い国という共通点をもっている。両国には、海路が中心的な交通の手段であった時代に、新しい文化の発信地・受信地としてお互いに交流を深めてきた長い歴史がある。また、大きな戦争を経験し、被害者、加害者の両方の経験もある。今日、「戦争は障害発生の最大原因」ということばを胸に刻みながら、国際連帯のなかで障害者問題の根本解決をめざす道筋を模索してきた。戦争、平和、障害者、連帯、自主・自立をキーワードに日本とベトナムの友好関係を深めながら、平和を実現し、安全で安心な社会となるような「発達保障の世紀」となることをめざしていきたい。
(日本ベトナム友好障害児教育・福祉セミナー実行委員会編 『日本ベトナム障害児教育・福祉研究創刊号 障害児の未来のために』文理閣 を参考に作成)

関連出版書籍


『障害児の未来のために』日本ベトナム友好障害児教育・福祉セミナー実行委員会 編

『胎動するベトナムの教育と福祉』黒田学・向井啓二・津止正敏・藤本文朗 編

学生紹介

  • 受講生の卒業論文一覧(PDF形式 126KB)(準備中)


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