嘘の生起過程に関する発達的検討(嘘の発達プロジェクト)
ヒトは日常的に嘘をつく (DePaulo et al., 1996)。嘘は他者との過剰な葛藤を回避し,円滑な対人関係の維持に役立つ一方で (DePaulo & Kashy, 1998),嘘をついた者の抑うつ症状の上昇や自尊感情の低下につながる (Dykstra et al., 2020; Preuter et al., 2023)。また,「法と心理」の問題を扱う領域においても虚偽検出などの嘘に関する研究や実践が50年以上にわたって行われてきた (Iacono, 2024; Lykken, 1974)。嘘の機能や検出などを扱った基礎・応用研究は今なお盛んに行われているが,嘘の生起要因については不明な点が多い。そこで,本研究計画では自分の評判に対する感受性 (評判への関心) に焦点を当て,嘘の生起要因を明らかにすることを目指す。評判への関心は他者から良い評判を得たいという欲求 (賞賛獲得欲求) と悪い評判を避けたいという欲求 (拒絶回避欲求) に大別される (小島他, 2003)。特に,青年期の若者は評判への関心が極めて高く,他者から承認されるため・排斥されないようにするために飲酒や喫煙,薬物使用などの法的なリスクを伴う行動をとりやすい (Blakemore, 2018; Tomova et al., 2021)。これは評判への関心 (賞賛獲得欲求と拒絶回避欲求) が嘘の生起要因にもなりうることを示唆しているが,その可能性を直接的に検証した研究はない。そこで,本研究では青年期における評判への関心と嘘の関係を検討する。また,その関係が年齢によって異なるか検討する。本研究が完成すれば,嘘の生起要因を明らかにできるだけでなく,法的なリスクを伴う行動をとりやすい若者特有の心理状態の理解やその支援策の提案にも貢献できるという高い独自性がある。したがって,本研究計画は「法と心理」の問題に関する新たな知見を提供できる。
共同研究者の田口恵也研究員 (大阪大学) は青年期における嘘の研究を専門としており,その成果を査読付き学術誌に掲載している (田口, 2022; 田口・溝川, 2024; 田口・太幡, 2024)。田口恵也研究員とは既に綿密な打ち合わせを行っており,採用後すぐに調査を実施できるという見通しが立っている。以上のように,本研究計画は確実に実行可能であり,助成期間内でのデータの取得及び論文投稿も十分可能である。
参加研究者
- 小國龍治 (総合心理学部・特任助教)
- 田口恵也 (大阪大学大学院人間科学研究科・特任研究員)
主な研究資金
2024年度 人間科学研究所 萌芽的プロジェクト研究助成プログラム