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祖父母育児参加が子どもの発達に及ぼす影響―日本と中国

筆者: 孫怡 (立命館グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員) 執筆: 2020年02月

 子育てにおける祖父母からの育児支援は、日本でも中国でもよく見られる光景です。祖父母とのかかわりは子どもの人格形成に大きな影響を与えるでしょう。しかし、両国では支援の頻度と内容が異なるため、祖孫関係も異なるでしょう。日本では一時的に子どもを祖父母に預けたり、一緒に遊んでもらうことが多いですが、中国では子どもの日常的な世話を祖父母に任せることが多く、それで両国における祖父母と孫との接触度がかなり違うでしょう。祖父母の育児参加による子どもの発達への影響を検討する際には、それぞれの異なる社会文化を考慮して検討する必要があると考えられます。

日本

 近年、日本社会では、超高齢化および少子化が進み、労働力不足や女性の仕事・育児両立、待機児童問題など様々な社会問題が深刻になっています。その背景に、ワーク・ライフ・バランスに困難を抱える子育て世代に、「祖父母力」をより活用する動向があり、子や孫を支える私的資源としての祖父母の重要性が次第に高まっています(樋口,2006)。その中で、子育てや共働きをする上で祖父母の支援を得やすい「近居」というライフ・デザインも注目されています(北村,2008)。祖父母の育児参加が高齢者のQOL(Quality of Life)、母親の心身健康に与える影響はこれまでたくさん検討されていますが、祖父母の育児参加が子どもにどのような影響を及ぼすか、それに関連する研究はまだ少ないです。特に日本では、なんらかの形で祖父母から育児支援を受けている家庭は少なくないものの、三世代同居または近居の割合が1割未満です。同居(近居)でない家庭では、祖父母からの支援頻度がそれほど高くないため、孫との接触度も限定されていると思います。また、専業主婦が多く、保育園などの託児施設や保育サービスも充実しているため、祖父母の参加頻度が週に10時間以上の家庭は少ないと思われます。0-2歳児の母親を対象とした「妊娠出産子育て基本情報」(ベネッセ教育総合研究所,2013)によると、子どもを定期的に預けている家庭は18.0%でした。また、子どもを定期的に預けている人のみを対象に、預け先を調べた結果、「祖父母の家」と回答した割合は16.4%でした。また、子どもの祖父母と会う頻度を尋ねたところ、もっとも会う頻度が多い母方祖母であっても、「ほぼ毎日」会うの割合は17.5%でした。これらの数字からは、0-2歳児段階で祖父母と密接に接触しているのは少ないこと、また、祖父母育児と子どもの社会性の関連についての研究も少ないことが読み取れます。、139名幼稚園児の母親を対象とした調査結果(中見・桂田・石,2012)によると、「実母と夫から育児サポート」を受けている群では、受けたサポートが多いほど、子どもの社会的スキルが高いことが示されました。また、祖父母の育児参加により母親の育児不安や育児負担を軽減し、母親の心身状態や養育態度が良くなることで、子どもの人格や社会性にも良い影響を及ぼすと考えられます。ただし、八重・江草・李・小河・渡邉(2003)の研究結果では、祖父母の子育て参加頻度が中程度のほうが、高頻度・低頻度群より母親の子育て不安が低いと指摘されました。

中国

 一方、中国では夫婦共働きがほとんどですが、3歳未満の乳幼児向けの保育施設が非常に少ない状況です。このように育児における公的資源が少ない状況下においては、祖父母の力を借りての共同育児(co-parenting)を行うか、3歳まで完全に祖父母が孫を育てるのが主流です。例えば、筆者が2017年に中国・上海で、1歳児をもつ母親522名を対象として実施した「祖父母の育児参加に関する調査」の結果から、完全に祖父母が孫の面倒を見る家庭が26%、祖父母と両親が一緒に共同育児している家庭が62%、祖父母に頼らず完全に親だけで子育てしている家庭が12%でした。つまり、都市部では88%の1歳児家庭において祖父母がある程度孫の育児に参加しており、両親が仕事に出ている昼間に祖父母に預けることが一般的です。両親ともに仕事が忙しく帰宅が遅い場合は、夜も祖父母が孫の面倒を見ることになります。このように、中国では祖父母の育児参加時間が長く、米国の国立子ども人間発達研究所(NICHD)が定義したnonmaternal careの育児時間、週に10時間以上という設定を、はるかに超えているのが現状です。。
 このように祖父母と密接に接している場合、子どもの社会適応にどのような影響を与えるでしょうか?
 上述した「祖父母の育児参加に関する調査」の一環として、祖父母と共同育児をしている母親から見た祖父母育児の影響について、9名の母親を対象にインタビューを行いました。その結果、祖父母は家事にも育児にも大変協力的であり、若い世代の負担を大きく軽減しているため、時間的・精神的に余裕をもって子どもとかかわることができたと報告されました。良質な親子のかかわりは子どもの情緒安定につながると考えられます。そして、インタビューでは、親が仕事に出かけている間にも、子どもに安心・安定な生活環境を提供し、祖父母は欠かせない存在であると感謝の気持ちも伝わってきました。また、祖父母との遊びやかかわりが、子どもの社会経験をよりゆたかにしたと思われます。
 一方で、祖父母の甘やかしが子どものわがままを助長しているのではという懸念もありました。また、高齢者である祖父母の体力の衰弱や社会参加の減少が原因で、子どもの外遊びや子ども同士とのふれあい機会が少なく、人見知りや他の子どもとうまく遊べないなどの心配も述べられました。それは筆者が2014年に中国上海で、ある幼稚園の園児の保護者(505名)を対象に実施した質問紙調査の結果とも一致していると考えられます。質問紙調査では、入園前の養育スタイルを3群(完全祖父母育児群、祖父母共同育児群、完全親育児群)にわけて、子どもたちの気質特性と社会適応を比較しました。その結果、「完全親育児群」のほうが、子どもの向社会性が最も高く、不安型母子愛着得点が最も低いことがわかりました。しかし、邢・梁・岳・王(2016)の研究では、祖父母と共同育児の場合、ほとんどの幼児は安全な母子愛着関係を形成できていると報告されました。
 また、年少児の場合、入園1ケ月時点で、祖父母の育児参加程度が高いほど、思い通りにならないときの反応がより激しい(大げさに泣いたり、かんしゃくを起こしたりといった行動)ことが示されました。祖父母の甘やかしにより、子どもの反応の激しさを高めた可能性を示したものと考えられます。。特に年少児が入園当初に集団生活経験がまだ少ない段階において、家庭養育の影響が大きいと考えられるのではないかと思います。 

参考資料

  • 樋口恵子(2006).「祖父母力」新水社.
  • 北村安樹子(2008)子育て世代のワーク・ライフ・バランスと“祖父母力”. Life Design Report, 16-27.
  • ベネッセ次世代研究所(2013)第2回妊娠出産子育て基本調査報告書.
  • 中見仁美・桂田恵美子・石暁玲(2012)幼児子育て期における家族からのサポートの重要性 園田学園女子大学論文集 第46号 227-239.
  • 八重樫牧子・江草安彦・李永喜・小河孝則・渡邊貴子(2003)祖父母の子育て参加が母親の子育てに与える影響 川崎医療福祉学会誌 13, No.2, 233-245.
  • 邢淑芬・梁熙・岳建宏・王争艳(2016)祖辈共同养育背景下多重依恋关系 及对幼儿社会−情绪性发展的影响 心理学报 48, No.5, 518-528.

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