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民事法領域でのケアと修復プロジェクト新しい家族の形について考える:オランダの親子関係法から

筆者: 金成恩(立命館グローバル・イノベーション研究機構 助教) 執筆: 2019年03月

生殖補助医療による家族形成

 現在、日本において生殖補助医療を受けることはすでに可能であり、生殖補助医療により生まれた子が現実に存在している。規制の可否についての法的な問題はさておき、生まれた子、または生まれてくる子の法的地位-法的親子関係と子の出自を知る権利-の保障をはかる法的な仕組みが整備されれば、生殖補助医療を用いて自分たちの子をもうけたい当事者の意思も子の福祉も、守ることができるだろう。さらに、上述した子の法的地位などの、子の養育環境を保障することができれば、異性カップルに限定せず、同性カップルにも生殖補助医療を用いて家族を形成することが保障されるべきではないかと考えられる。

オランダ、同性カップルの親性を認める

 オランダは、1998年に登録パートナーシップを、2001年には同性婚を導入しており、それに伴って、同性カップルの(国内外)養子縁組が認められている。生殖補助医療に関しては、非配偶者間人工授精(以下、「AID」という)と卵子提供による体外受精が認められており、利用対象者には、異性カップルだけではなく、同性カップル及び独身女性も含まれている。
 女性カップルの一方がAIDを利用して子を分娩した場合は、生まれた子と他方との間に養子縁組をし、子の養母となる、つまり出産によらない母が認められた。さらに、2014年の民法改正により、女性カップルがAIDに合意している場合、子を分娩した母と婚姻関係あるいは登録パートナーシップ関係にある女性が、養子縁組手続を経ることなく、自動的に子の母(二人目の母)となる、いわゆるコマザー(Duomoederschap van rechtswege/ Automatic parentage for co-mothers)が成立した。コマザーにより、遺伝的要素のみによる親子関係という考え方は大きく後退し、親になりたいという意思を基礎とする親子関係が正面から認められるようになった。男性カップルにおいては、代理懐胎以外の方法では子をもうけることができず、もし子が生まれたとしても、男性カップルが法律上の親になるためには、分娩した母と子の家族法上の関係を解消しなければならないという理由で、2014年の改正ではコファーザーは導入されなかった。
 2016年12月、オランダ政府は、親性の再評価のための国家委員会を設立し、「21世紀における子と親」という報告書を発表した。この報告書の目的は、遺伝的要素による親子関係と意思による親子関係を等しくすることであり、多数親関係 (Juridisch meerouderschap / Legal multi-parenthood)が提案された。多数親関係とは、男性カップル(一方が精子提供)と女性(代理懐胎)の3人、及び男性カップル(一方が精子提供)と女性カップル(卵子提供・代理懐胎)の4人が、子の法律上の親となり、共同で子を育てることを意味する。もちろん、子の利益保護のため、多数親関係の手続きは厳格である。多数親関係が成立するためには、①授精前に、全員の同意と弁護士による合意書-養育方法、養育費、子の氏、子の成長後の合意書の変更など-の作成、②作成された合意書を裁判所に提出、③合意書の内容が子の利益に符合するかどうかを裁判所が確認するという手続きが必要である。その後、授精の実施が認められ、子が生まれると、同意した全員の名が出生届に記載されるようになる。同報告書への各界の反応は、2019年前半に公表される予定である。(2018年9月のオランダ現地調査より)

動き出した自治体、そして課題

 2015年、東京都渋谷区と世田谷区が同性カップルのパートナーシップ証明制度を導入したことを皮切りに、パートナーシップ制度を導入した自治体が増え、徐々に全国の自治体に広まっている。これをきっかけに同性カップルの婚姻を認める、あるいはパートナーシップを異性カップルの法的婚姻と同等に扱う法制度を制定するなど、同性カップルの法的取扱いに関する議論がなされており、一般市民に「性の多様性」、「家族の多様性」を考えるきっかけを与えた。日本における議論は、通常、同性カップル間には子が生まれないという生物学的な理由をもって、同性カップルの法的承認の可否にのみ焦点が当てられている。しかし、女性カップルがAIDを受けて子をもうけることはもちろん、男性カップルの場合においても代理懐胎の利用により子をもうけることが可能となっていることを鑑みると、同性婚の承認の可否という当事者間の関係だけではなく、親子関係の形成の可否も法的問題として扱うべきであると考えられる。

参考文献

  • 金成恩(2012)「代理懐胎問題の現状と解決の方向性(3、完)-日韓の比較を通じて」立命館法学341号357-453頁
  • Kim Sungeun,(2012), Reviewing Circumstances and Strategies for Resolving Issues Relating to Surrogacy -A Comparison of Japan and Korea, Ritsumeikan Law No.341,357-453p
  • 渡邉泰彦(2017)「子と母の女性パートナーとの母子関係の成立 ―オランダにおける子とデュオマザーの親子関係―」産大法学50巻3号211-234頁

 

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