えっせい

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模擬裁判に垣間見る視点の多様性

筆者: 山崎優子 執筆: 2010年

 本年2月末の1週間、朱雀キャンパスで大規模な模擬裁判を実施した。裁判員役は社会人と大学生115人、裁判官役は法の実務家(京都弁護士会所属の弁護士16人)、法科大学院の学生3人、刑事訴訟法を専門とする大学教員5人。計20評議体にわかれ、模擬公判の様子をDVDで視聴後、被告人の有罪無罪について議論した。 被告人は借金トラブルから知人を殺害したとして起訴されるが、犯行を否認。事件の目撃者は、警察が見せた8人の男の顔写真の中から被告人を犯人と同定している。被告人は、凶器と同じ型のレンチを所有していたが紛失。また、事件当日、事件現場で、借金をめぐる口論から、被害者に「どろぼう」と言われたのに腹を立て、胸ぐらを掴んだことを認めている。事件の目撃者も、被害者に「どろぼう」と言われた犯人が、胸ぐらを掴み、凶器で殴ったと証言している。
 偶然が重なると、人は必然と考える傾向にある。 「凶器と同じような型、メーカーのレンチを被告人が持っていて、それを、1週間前になくしたと言っていて、今はないっていうのは……」 「1個1個見るとね、まあ、疑わしいところは多いんですが、その、それがすべて偶然として重なり合う可能性というのは、どれぐらいあるのかなというのが、疑問ですね。」 しかし、一方で、疑問の余地が残る複数の証拠よりも1つの決定的な証拠を求める声や、有罪とするにはまだ疑いが残る、とする意見もあった。 「レンチは、よくあるタイプなので、決め手にはならないかと。指紋とかついてないし。」 「第三者が、二人が別れたあと、やって来て、あのー、殺した可能性は捨てられないと、考えたわけです。」 中には、経験にもとづく類推もみられた。 「昔ヤクザにからまれて、どつかれたことがあって、そのとき交番にすぐ行って、2、3日くらい府警さんに似顔絵書いていただいたんですけど、けっこう覚えてるもんです。でも、どつかれた時に僕の後ろにいた子とは、イメージがちょっとずれてくるんですよ。そう考えたら、3日後で、ちょっと遠くて暗いところから見たら、たぶん、ずれてくるのかって気がするんです。」 評議の結果、裁判官、裁判員とも、有罪無罪の判断は二分した。有罪無罪が争われる裁判員裁判では、視点の多様性が評決に影響するようである。裁判では、万人にとって決定的な証拠があるとは限らない。裁判員に選ばれたとき、あなたの思考、経験は、どのように司法判断に反映されるのだろうか。


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