えっせい

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不揃いなりんごたち

筆者: 春日井敏之 執筆: 2004年月

 今年度は、文学部に教育人間学専攻が誕生して4年目を迎え、初めて卒業生を送り出すことになります。私は、現在4回生演習で、18名のゼミ生を担当していますが、4月以降週1回のゼミで、全員揃うことは一度もありません。
 Aさんは、春休みから就職活動に突入しました。エントリーシートを20件ほど書いて、自分の出身地域にこだわった企業探しをし続けてきました。途中経過は、メールで報告が入りゼミのメーリングリストで全員に流れます。
 5月22日のゼミに、やっとの思いで就職の内定をもらったAさんが、今年度初めて出席し次のように話してくれました。
 「初めの頃は、自分 をよく見せようと無理をしてエントリーシートを書いてきた。しかし、面接までなかなか行けなくて、自分を全否定されたような気がして、何度も落ち込んだ。 そこで、無理をしないで、自分の気持ちや持ち味を正直に書いて出したら、面接の連絡が次々に入るようになった。自分の持ち味は、派手ではないけれども、こ つこつとまじめに努力すること。第一希望に内定が決まった直後に、数社から面接の案内や内定の連絡をもらったけれども、他の人に少ない機会を譲るべきだと 思って断った」。Aさんのまじめさが、本当によく伝わってくる報告に拍手が起きました。Aさんを含めて、就職内定者は現在4名です。この中には、3回の面 接で全てで、号泣しながら自分を語り社長面接を突破したBさんもいます。
 B君とCさんは、積極的な理由で1年間休学をしています。B君は、大阪のNPOで中学生を対象にしたキャリア形成のための事業の企画・運営の中心を担っています。Cさんは、日本ブラジル友好協会を通して、サンパウロ校外のスラム街でボランティア活動をしています。
 6月には、出身校で 教育実習を行う学生が6名います。また、大学院への進学を希望している学生も3名います。他方では、公務員採用試験を受けようとしている学生、結婚出産の ために退学した学生、5回生が確定した学生、今のところは就職活動とは少し距離を取っている学生などもいて、それぞれが自分色の味を出しています。
 こうした姿を見ていると、「厳しい状況の中でよくやってるよ!」と「不揃いなりんごたち」全員に声をかけたくなります。
 同時に大学生活が、学部での学びを3回生で事実上終了し、4回生は企業への就職活動、大学院進学、教育実習や教員採用試験などに費やされていることに直面して、4回生の学びとキャリア形成、ゼミの意義などについて改めて考えています。
 週1回ゼミの時だけ、大学の空気を吸い仲間に合うために来ていると言う学生も少なくないのです。勿論、卒業論文作成に向けた個別の指導も必要ですが、集団でじっくり論議をしながら学ぶことの意味や自分色を認め合える居場所としての小集団教育の意義も大きいと思うのです。


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