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「統合教育」を巡る現代史生存学の企て――障老病異と共に暮らす世界へ

筆者: 立岩真也(先端総合学術研究科教授) 執筆: 2016年7月

「病者障害者運動研究」は落ちた

 「「統合教育」を巡る現代史」という主題で研究助成をいただいたのだが、私自身にはとてもこれをきちんとやるだけの力はない。ただ今後そうした研究をする人がきっと出るだろうからと思い――その気運のようなものは感じる――、書籍(たいがい古本で安く入手できる)を買い、市販されるものでない報告書やそれからビラの類を整理し、それらについてのページを作ってHP(http://www.arsvi.com/)に載せることをいくらかした。
 それは大きくは「病者障害者運動研究」といった研究の一部でもある。この題で科学研究費に応募したが採択されなかった。じつは科研費申請、もっと大風呂敷な「身体の現代」という題でたしか4年続けて申請し、落ちている。それで、もっと絞った方がよいのかとも考え、書き直した。長く私は『現代思想』で連載をさせてもらっていて、その第118回(『現代思想』2015年12月号)でその大部分をそのまま掲載した(「病者障害者運動研究――生の現代のために・8」)。それを小分けにして生存学研究センターのフェイスブックに掲載し、さらにそれをまとめたページがある(http://www.arsvi.com/ts/20150118.htm)から、読んでいただける。なんで採択されないのか理解できない。理解できないのだから、もうだめ、ということなのだろう。しかし変更のしようがなく、書き換えようがないので、途方にくれてしまう。

それでもする、するのを手伝う

 よってお金はないのだが、それでもできることを細々と続けていこうと思って、それで、さっき紹介した『現代思想』の連載もそれに関わることを書いている。今は国立療養所を場として起こってきたことを少し追っている。それはやがて、1960年代の終わり頃、結核療養者に代わってその場に入ってくることになった筋ジストロフィーの人たちの話になるはずだ。
 自分自身の仕事としては、そうやって細々とやっているのが実は最も功率がよい。様々な調整だとかお金の関係のこととかをせずにすむ。ただ当たり前の限界がある。一人は一人分の仕事しかできないということである。全体がもっとなされてほしいと考えるなら、別の人たちにやっていただく以外にない。
 私が、しんどくて面倒だと思いながら、今の職場で仕事をしているのも、そんなところがある。また私が、まったくの素人でありつつ、読んだことのない本を今になって読んで連載などしているのにも同じ理由がある。とりあえず言えそうなことをざっと書いてみる。あとは、詳しくは、皆様どうかよろしく、というのである。

『生存学の企て――障老病異と共に暮らす世界へ』

 2016年3月31日付で、『生存学の企て――障老病異と共に暮らす世界へ』(立命館大学生存学研究センター編、生活書院、2500円+税)という本が出た。「生存の現代史」、「生存のエスノグラフィー」、「生存をめぐる制度・政策」、「生存をめぐる科学・技術」という4つの章に、大学院生や大学院生だった人たちが書いた文章を13個(かなり長く)引用・紹介していくというスタイルのもので、当初は、学部生にも読めるような「テキスト」のようなものをという話もあったのだが、このようなスタイルを選んだ時点で、それはほぼ無理だと思ったし、実際集まってきた原稿を読んでみても無理だと思った。それで、「序章」(これは当初から書くことが決まっていた)と「補章」(これは当初案にはなかった)を書いた。誰に向けて書いたか。大きくは、これから研究をしたいかもしれないと思っている人に向けて書いた。補章では、具体的に私が関わってきた人たちがどんなことをしていて、それにどのように関わってきたか、関わっているか、書いてみた。もう一つ小さくは、もう私が主に関係した人たちでもう博士論文を書いた人だけでも50人に近くなっていて、互いに知ったらよいことがあるのに、互いに知らないという事態も起こってしまっている。それではもったいないと、とくに入学してきた人に読んでもらうために書いた。ややこしい部分もあるが、全体として、研究することはある、研究できてしまうことをわかってもらえるようになっていると思う。これは、万人に対して、ではないかもしれないが、お買い得の本である。買ってください。

『われらは愛と正義を否定する――脳性マヒ者 横田弘と「青い芝」』

 ついでに、さきの「病者障害者運動研究」関係でもう一冊。横田弘・立岩真也・臼井正樹『われらは愛と正義を否定する――脳性マヒ者 横田弘と「青い芝」』(生活書院)。こちらの奥付は3月25日となっている。2013年に亡くなった横田弘と私は3度対談しており、うち2回が、この本に長い註とともに再録されている――もう1回は横田弘『否定されるいのちからの問い――脳性マヒ者として生きて 横田弘対談集』(2004、現代書館)所収、ただし現在品切れ。神奈川県の行政職者として横田の敵であり、やがてそして長く友であった臼井正樹(現在は神奈川県立保健福祉大学の教員)の企画によって出た本であり、臼井が、横田を巡る文章が4章分書いている。この本も、おもしろいと思う。これもそして『生存学の企て』も、私のツィッター、そして生存学研究センターのフェイスブックで紹介していく。ご覧ください。

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