FROM FOREIGN PRACTIONER

田恵平 氏
 「障害者の社会サービスは文化的発展の重要部分である
  -中国における障害者社会サービスの挑戦」

 障害者の社会サービスシステムは社会文化構造における重要な要素の一つである。中国が25年間にわたり経済発展を遂げたことは世界中で知られているが、同時に、無視できない厳しい問題もある。経済発展だけが社会や文化の発展の全てではなく、社会サービスシステムの構築と改善を軽視することはできない。しかし、中国の経済とテクノロジーの「繁栄」といううわべの下で、社会サービスシステムは著しく欠如しており、障害者の社会サービスは白紙状態であるといえる。つまり、今日の中国において、障害者は主に父母(父母の後はその他の家族)がケアするという数千年の伝統が今なお続いている。
 中国では障害者の家庭は、コミュニティからいかなる支援(医療、トレーニング、教育、介護や政府の福祉システムにおける経済的援助に関わらず)もほぼ期待できない。中国の過去25年間の大きな変化の中で、障害者の社会サービスシステムは旧態依然の分野であり、その最大の障害となっているのは、政府に税収による支援政策が無く、障害者とその家族も障害者の生存権が社会保障システムにより保障されるべきだと意識していないことである。政府は、障害者に家族がいる場合には、政府には責任がないと考え、また、障害者或いはその家族自身も自分達の不幸だと考えている。「星星雨」の調査では、「障害者のケアと介護」は「家庭の問題」で「社会の問題」ではないと考える自閉症児童の保護者が90%以上を占めており、中国社会のこの問題についての認識の現状が反映されているといえる。
 ここ10年間、中国各地では民間の障害者支援機関(NGO)が徐々に設立されているが、政府から一切の資金援助を受けていないため、多くが家賃や給与等の負担に悪戦苦闘している。そのため継続できる機関は少なく、サービス対象者から受け取る費用が唯一の資金源となっている。社会保障システムが無いため、障害者を抱える家族の経済的負担はきわめて大きい。保護者は、障害児の現在の費用負担ばかりでなく、将来自分が働けなくなった後に誰がサポートするのか、更には自分達が他界した後に子供がいかに生活していくかを心配しなければならない。
自閉症患者のサービスを例に挙げると、NGOが主なサービス提供者であるが、経済的には薄氷を踏むが如く不安定で、同時に専門的資源の不足にも直面している。具体的には以下の点が挙げられる。
  1. 学歴と資質を有する専門的なスタッフが不足している。特殊教育と社会福祉の専門がある大学は数えるほどしかない。
  2. セミナーと研修の機会が不足している。「星星雨」のABA教師を例とすると、専門セミナーは「星星雨」内のベテラン教師が行っており、「星星雨」以外に学習やセミナー等のリソースがない。
  3. 専門の資料と情報が不足している。例えば、自閉症に関する中国語の資料はほぼ皆無であり、カリキュラム、教材、関連書籍、リスト等に関してはいうまでもない。
  4. 障害者サービス業界における専門の設備や器具等の製品が不足している。
上記をまとめ、私は以下のように考える。
  1. 関連する専門及び学術界が、中国における障害者の生活状況に対して詳細なリサーチを実施し、政府が政策制定や法律改正をするためのデータと実行可能なプランを提供すべきである。
  2. サービス提供者(service provider, practioner)のニーズと課題を理解し、専門的な研修と支援を行う。
  3. サービス提供者との密接な協力関係を構築し、共同でサービス業界の発展を推進し、サービスの質を向上する。(例えば、サービス提供者を研究事業に参加させると共に、研究者がサービス機関に深く入り込む)
以上は、私個人が中国における自閉症患者のサービスに従事した13年間の一考察であり、政策運営の参考までに供するものである。
田恵平
北京星星雨教育研究所
2006-03-22