FROM FOREIGN RESEARCHER

James E. Roberson 氏 (東京女学館大学 人類学教授)
 「文化人類学的観点から見た対人援助学の重要性について」

 立命館大学人間科学研究所のヒューマンサービスリサーチセンターにおける、 重層的に対人援助学を展開していく試みには大きな期待が寄せられ、 迅速な展開が求められている。21世紀を進んでゆくわれわれにとって、 人々のニーズに対して、統合的かつ包括的な理論に基づいた視点を持ち、 実践的アプローチを試みることの重要性および緊急性は、今後ますます増大していくであろう。

 これは日本と世界の両方にあてはまることである。出生率の低下や高齢化社会、 片親家庭の増大、女性の就労の拡大、様々な形態の対人暴力および性暴力、 障害者の尊厳を保ちながら社会参加の機会を増やすための継続的試みなど、これら今日の日本で見られる社会的、 人口学的現象は、最新の理論と実践に基づいた、人間科学と対人援助の融合を必要とするであろう。 これら日本国内での現象や他の地域的課題と、世界的現象との関連は一層密接になるであろう。 世界的現象とは、例えば、貧困や環境破壊、武力紛争、その他の暴力が複雑に絡み合った人為的結果として起こる、 (難民を含む)国際移民の問題や、社会経済的な変化によりもたらされるものなどである。

 上述のように、これらの現象に実際に取り組む際には、地域的な社会文化的特異性と、 万国共通の要因や経過とのつながりに留意しなければならない。さらに、個人の意思決定や行動には、 その背景となる組織や力や体制が複雑に反映されているということも理解すべきである。 対人援助学的アプローチを用いた共同研究のための4つのプロジェクトは、 このような複雑で多元的かつ反射的な側面を持つ現象に配慮し、対応できるよう構成されている。

 対人援助学は文化人類学、特に下位領域である医療人類学と応用人類学を組み合わせた全体的アプローチに似ている点が多い。 両学問における目標は問題を分析し、現実的な解決法を提供することであり、 それは個人と社会のレベルで同時に顕在する人間のニーズに対して、個別文化に配慮しながら実践的に理解することを前提にしている。 もう一つの目標は、事象を統合的そして包括的に理解しつつ、社会的弱者の地位向上を提唱し、 文化的・個人的多様性と差異を尊重する解決法の創出に向けて研究を行うことである。 対人援助学が人類学的視点とアプローチから考察することによる恩恵をうけ、 また文化人類学者が、人間重視の対人援助学のこれからの発展に関わることから利するところがあるのは確かである。