FROM FOREIGN RESEARCHER

Erik De Corte 氏(ルーバン大学、ベルギー)
 「対人援助学:挑戦的プロジェクト」

 立命館大学人間科学研究所内のヒューマンサービスリサーチセンターが「対人援助学」なる新しい研究分野を展開する計画は、 独創的で意欲的な取り組みである。家庭生活や教育、障害者、医療、高齢者介護、職業能力開発など、 多種多様な課題が社会のそれぞれの領域にあるわけだが、今日、急速に発展しグローバル化が進む世界においては、 このような課題に歩調を合わせていく必要性が増大している。この取り組みは、まさにその必要性に対応するものである。

 これらの課題を解明し、理解し、何らかの解決につなげるためには、 広義の社会科学や行動科学など広範な専門知識を有する研究者チームの協力が欠かせない。

 学校教育を例にとって説明する。学習と指導に関する現在の研究は、 授業を改善し再検討する必要性を指摘している。 これは、教育の目的はカリキュラムの主題となる領域において応用力を獲得することであるとの新しい概念に基づく。 主題領域に対する興味や前向きの姿勢をはぐくみながら、 (テクノロジーを利用した)効果的な学習環境の中で知識や認識力や自律力を養うことが学生の学びであるとの新しい視点を 伴うのである。しかしながら、教室は学校の中に組み込まれており、学校は広義の社会の一部である地域社会に属している。 そのため、学校改革や教室改革を促すためには、その文脈的、社会的、組織的側面を考慮しなければならない。 結果として、革新的なカリキュラムや新しい効果的な学習環境を立案・評価する研究では、 全体的かつ包括的アプローチが必要であり、教育心理学、教育工学、教員養成、 学校改革などの研究者と教育社会学者の共同作業を要するのである。

 学習と指導についての新たな視点や革新的な学習環境を、教育現場において研究し普及させるためには、 研究者と教育者の連携と協力が必要である。 この点で、適用しようとする新しい指導法が現在の教室の中で使えるかどうかということをまず考慮しなければならない。 さらに、授業の改革は単に新しい教育技術を習得するということだけでなく、 教師の信念や態度、意識を根本から変えることが必要である。教育者は理論を実践するのみならず、 研究に基づいた授業を行うことで、研究者のパートナーとして研究をより現場に即したものにすることができる。
 今日どの分野においても、最先端の研究では学際的な連携がより一層重要となってきている。「対人援助学」はこの点でそのモデルとなる可能性を秘めている。