えっせい

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より
「イギリスで日常生活のポリティクスを学ぶ」

筆者: 斎藤 真緒   執筆: 2009年 月

(写真1)この日はロンドンからブライトンまでの自転車レースの日 イギリスでの1年間の在外研究もあっという間に終わってしまった。海外で1年過ごすというのは、私にとって生まれて初めての経験であり、得体の知れぬ不安のために、出国前の約2か月間は、正直、マリッジブルーならぬ「留学ブルー」に陥っていた。しかし、生れながらの楽観主義者のおかげか、すぐにイギリスの生活に溶け込み、つい先日までは、日本に帰りたくない=「帰国ブルー」の真っ只中にいた。
私が1年間を過ごしたのは、ロンドンから1時間ほど南下したところに位置する、イギリス有数のリゾート地と言われているブライトンである。もっとも気候が暖かい現在は、週末にもなるとビーチに大量の人が観光も兼ねて押し寄せてくる。私のフラットも海に面しており、玄関をでるとすぐに目の前に海が広がり、歩いて数分でビーチに到着する。(写真1)。

 夏至を過ぎても日が暮れるのは9時すぎ。少し涼しくなる夕方6時くらいから、ビーチに寝転んで読書をするのが、私のいちばん幸せな時間の過ごし方であった。
 いざ、イギリスで生活をすると、さまざまな局面で「日本人」としての自分というを思い知らされるだけではなく、自分の中に知らず知らず沈殿し続けていた「常識」といったものが、たびたび揺るがされる経験をした。
 特にブライトンが私にとって刺激的であり得たのは、この街がイギリス有数のセクシュアルマイノリティの拠点であったこともあるだろう。ジェンダー・セクシュアリティを勉強してきたとはいえ、日本とは全く異なる経験を、日常生活の中で味わうことができた。
たとえば6月に開催された「Brighton Naked Bike Ride 2009」(写真2)。

(写真2)「Brighton Naked Bike Ride 2009」 これは車社会への警鐘および自転車と自分の身体を楽しむことを意図して企画されたものだ。身体に思い思いの装飾を施し、あるいはまさにすっぽんぽんになって、自転車に乗って街をパレードするもの。太い、細い、小さい、弛んでいる、白い、黒い、でっぱっている、毛深い、薄い、ぼこぼこ、つるつる・・・・  さまざまな身体を表象する(しばしばネガティヴなものと分類されうる)形容詞を全く気にもかけずに、参加者は実にのびのびと思いのままに自転車をこいでいる。このパレードによって当然のことながら街は大渋滞。しかし車に乗っている人たちが鳴らすクラクションは、クレームではなく、賞賛によるもの。みんな手をたたいてエールを送っていた(残念ながら、この風景は写真ではお見せすることができません・・・)。
 ブライトンという街の寛容性がもっとも象徴的にしめされていたのが性の多様性の象徴として用いられるようになったレインボーの旗である。私が住んでいたKemp  Townは、ブライトンの中でもゲイコミュニティのメッカとして知られていた。ゲイフレンドリーなパブが数多く並ぶだけではなく、スーパーや床屋など、あらゆるジャンルのお店がこの旗を掲げている(もちろん有名な某コーヒーショップ「スター○ックス」にも、レインボーのシールが窓に貼られ、ゲイ専門のフリーペーパーが他のリーフレットと同様に並べられていた)。特に、Pride Paradeの時は、イギリス各地に限らず、世界中からこのパレードを見るために観光客が殺到した。セクシュアルマイノリティの当事者のみならず、BBC、NHS、Lloyds等のメジャーな銀行やSainsburyといったスーパーマーケット、消防局や警察、社会的立場を問わずこのパレードに参加する。子どもだって親と一緒に普通にパレードを楽しむ(写真3、写真4)。

(写真3)「Brighton Naked Bike Ride 2009」(写真4)車いすで参加していた自称最高齢のゲイのおじいちゃん

 商業主義という批判も可能であろうが、こうした多様な性に対する寛容さを子どもの時から自明のこととして享受すること、みんなが人生を楽しみ謳歌するチカラをもっていること。そのことが有する潜勢力は少なくないのではないだろうか。
 帰国後、講義もスタートし、事務処理能力が大幅に低下し、タイムマネジメントに苦慮する毎日ではあるが、イギリスが私に教えてくれたことは、まさにpricelessなのだろう。

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