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「1960-61年のポリオ流行 」

筆者: 松田 亮三   執筆: 2006年 月

産業社会学部 助教授[br]松田亮三気になっているがなかなかきちんと調べることができないことがある。1960年代初頭のポリオの生ワクチン接種をめぐる歴史がその一つだ。当時日本でポリオが大流行し,それに対してソ連・カナダから未承認の生ワクチンが大量輸入され,薬事法等の規定を超えて投与の許可が与えられたという事件である。感染症の大流行というリスクと副作用の危惧が払拭されなかった生ワクチンの投与という対抗手段がある中で,いったい何が起こったのか?

このことをひさしぶりに考えたのは,現在行っている「医療・福祉における地域・住民エンパワメントプロジェクト(CEHSOC)」の前身である「医療生協プロジェクト」の成果として出版された『21世紀に語りつぐ社会保障運動』(あけび書房,2006年)による。同書は,戦後のさまざまな社会保障に関連する社会的事件の当事者の講演を中心にまとめたものであるが,森永砒素ミルク中毒事件,被爆者などの証言とともに,生ワクチンの投与を求めて運動した母親たちに関わった医師と一連の経過について取材を行った映像ジャーナリストの講演録が掲載されている。

一般的にいえば,国内で安全性が確認されていない薬剤を投与することはやってはならないことである。しかし,一方で差し迫った感染症の危機が出現しており,安全性は十分確認されていないが効果があると考えられているワクチンがある場合に,社会はどのように対応すべきなのか?おそらく,決して過去のこととして済ませられない課題がここにはある。感染症のアウトブレイクなど,不確定要素が大きくかつ巨大な影響をもたらす事柄はますます増えているからである。

不確定要素が多い事象への対応を行うには,科学の論理だけでは不十分であり,メディアの役割や政治の役割などさまざまな社会科学的検討が必要であり,可能であろう。ポリオの生ワクチン投与をめぐる経過は,こうしたことを考える格好の具体的事例ではないか。例えば,薬事法の規制を乗り越えて未承認の生ワクチンの投与が行われたのは,投与を求めた母親たちの運動やマスコミのキャンペーンによって政治的決断が促されたといわれている(日沼2005)。また,生ワクチンをめぐってソ連と米国での対抗があった可能性も指摘されている(前掲書)。

ところが,『未来への伝言』という映画にもなっているこの事件は,筆者の知る限り,公刊されている当事者の資料も少なければ,学術的検討もほとんどされていない。では,私が,といいたいところであるが,各種の業務および既存の研究の中で,新たな研究時間をとることもできない。それで,気になったまま時間がたっていく。他人に自分の気にしていることをなんとかしてほしいと頼むのは虫が良すぎるけれども,興味のある人声かけて下さい。

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