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取調技法プロジェクトより
「有罪無罪の判断に影響する要因」

筆者: 山崎優子 (立命館グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員)   執筆: 2017年 5月

 刑事裁判で有罪無罪の判断に誤りがあれば大きな悲劇である。法と心理学研究では,有罪無罪の判断に影響する複数の要因について検討されてきた。本稿ではそのうち3つの要因について取り上げる。

取調べ技法

 代表的な取調技法として,リードテクニック(Reid Technique)とピースモデル(PEACE Model)が挙げられる。前者は自白の獲得が主な目的であり,取調べ官が被疑者との対立姿勢を明確にして,「はい」「いいえ」で回答させるクローズド質問(たとえば,「あなたがやったのですか?」)を行う(Buckley, 2013)。一方後者は事件に関する情報を収集することが目的であり,取調べ官は人権に配慮し,協力的態度で接する。そして自由に語らせるオープン質問(たとえば,「その時のことをすべて話してください」)を主に行う(仲,2012a)。

  あなたが被疑者なら,どちらの取調べを受けたいですか?
  あなたが裁判員なら,どちらの取調べで得られた自白供述を信用しますか?


 人は予断と一致する情報を得ようとする傾向にある(Nickerson, 1998)ため,リードテクニックによる取調べは,予断と矛盾する事実への気づきを困難にする可能性がある。一方オープン質問による取調べは,被疑者が嘘をついているほど矛盾が生じやすい(仲,2012b)。リードテクニックよりもピースモデルによる取調べで得られた自白供述の方が,信用される傾向にある(山崎・山田・指宿,2017)。

取調べの録画映像

 真実を知るためには,対象についての主観を捨てて「客観的にみる」ことが重要である。しかし,こと対象が人になると,主観を捨てることは難しい。例えば犯罪の被疑者に対して,人はネガティブな印象を抱きやすい。そしてその程度は情報の提示方法によって異なる。被疑者が「自由意思で自白したか」の自白の任意性判断は,取調内容を音声で提示された場合よりも映像で提示された場合の方が高まる傾向にある(Kassin, Meissner, & Norwick, 2005)。また取調内容が映像で提示された場合,映像のカメラアングル,すなわち被疑者一人のみを映しているか,被疑者と取調官の両方を映しているかによって自白の任意性判断は異なる。

  あなたが被疑者なら,どちらのカメラアングルの取調録画映像を採用して欲しいですか?
  あなたが裁判員なら,どちらのカメラアングルの取調録画映像を採用して欲しいですか?


 Lassiter and Andrey(1986)は,被疑者一人のみを映したカメラアングルの方が,被疑者と取調べ官の両方を映したカメラアングルよりも,自白の任意性判断が高まることを明らかにした。現在我が国では被疑者のみを映すカメラアングルが採用されており,2016年4月の裁判員裁判では,自白の取調録画映像が決め手となり,有罪判決が下された(2016, 読売新聞)。しかし2016年8月の東京高等裁判所の判決では「(核心部分に)客観的な裏付けがないことを,取調べ時の供述態度から受ける印象で補おうとすれば,信用性の判断を誤る危険性がある」として,取調録画映像を証拠採用しなかった一審が支持された(LEX25506536)。

評議

 他者の意見に同調しやすい傾向には個人差があると思われる。

  あなたが裁判員なら,多数派の判断にどの程度影響されると思いますか?

 映画「怒れる12人の男」では,最初陪審員12人のうち11人が有罪と判断したが,無罪と判断した1人が検察の有罪立証の矛盾を訴え,最終的に12人全員が無罪と判断した。しかし多くの場合,評議前の多数派の意見が最終的な評議体の判断となる傾向にある(Davis, 1973)。小坂ら(2016)は,被告人の有罪無罪について決定する評議では,1つの結論に合致する発話が繰り返しなされ,合致しない情報は排除されていくことを明らかにしている。評議を行うことで,有罪か無罪かの判断の妥当性が高まるとは限らないという事実は重要である。

引用文献

  • Buckley, J. P.(2013) The Reid Technique of interviewing and interrogation. JOHN E. REID AND ASSOCIATES, INC(2013 年 2 月 6 日)(2017年3月31日取得 http://www.neaifi.org/_media/file/2013+REID+PRESENTATION+oneday+-+insurance.pdf
  • Davis, J.H.(1973)Group discussion and social interaction: A theory of social decision schemes. Psychological Review, 80, 97-125.
  • Kassin, S. M., Meissner, C.A., & Norwick, R. J. (2005). “I'd know a false confession if I saw one”: A comparative study of college students and police investigators. Law and Human Behavior, 29, 211-227.
  • 小坂祐貴・山崎優子・石崎千景・中田友貴・若林宏輔・サトウタツヤ(2016). 裁判員裁判における評議パターンの提案――質的・量的分析の統合から――. 立命館大学人間科学研究,34, 49-67. http://r-cube.ritsumei.ac.jp/bitstream/10367/7545/1/GL_34_kosaka.pdf
  • Lassiter, G. D., & Audrey, A. I. (1986). Videotaped confessions: The impact of camera point of view on judgments of coercion, Journal of Applied Social Psychology, 16, 268-276.
  • 仲真紀子 (2012a). 科学的証拠にもとづく取調べの高度化:司法面接の展開とPEACEモデル 法と心理 12, 27-32.
  • 仲真紀子(2012b). 被疑者取り調べ技術の科学化-PEACEモデルに見る情報収集アプローチ 科学技術振興機構(2012年2月22日)(2017年3月31日取得 http://scienceportal.jst.go.jp/columns/opinion/20120222_01.html)
  • Nickerson, R. S. (1998). Confirmation bias: A ubiquitous phenomenon in many guises. Review of General Psychology, 2, 175–220.
  • 山崎優子・山田直子・指宿信(2017). 取調べ手法とカメラアングルの組み合わせが事実認定に与える影響についての予備的実験. 立命館大学人間科学研究,35, 67-79. http://r-cube.ritsumei.ac.jp/bitstream/10367/7955/2/gl_35_yamasaki.pdf
  • 読売新聞(2016). [スキャナー] 栃木女児殺害判決 取調べ映像 決め手 4月9日 東京朝刊

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