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フランス行刑法研究会より
「刑の執行の個別化と適正化:フランスの行刑裁判官制度から」

筆者: 相澤育郎 (立命館グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員)   執筆: 2017年 4月

はじめに

 日本では、いったん有罪判決が言い渡されれば、裁判官がそれ以上関与することはなく、自由刑の執行は検察官の指揮のもと刑務所などで遂行されます。しかし、諸外国には、引き続き刑の執行に裁判官が関与する仕組みが存在しています。これがいわゆる行刑裁判官制度であり、フランスでは「刑罰適用裁判官(juge de l'application des peines)」と呼ばれています。

個別化の裁判官

 1958年に創設された刑罰適用裁判官は、その当初から刑の執行の「個別化(individualisation)」を重要な任務としてきました。今では、次の2つの局面でこれを行います。
 その1つは、自由刑の執行中の個別化です。具体的には、刑罰適用裁判官は、半自由(昼間は刑務所外で一定の活動に従事し、夜間は施設で過ごす)、構外作業(刑務所の外で恒常的に一定の活動に従事する)、固定型電子監視(電子監視装置によって、一定の活動時間以外は自宅を離れることを禁止される)、仮釈放および外出・外泊許可といった拘禁の緩和ないし解除の措置を受刑者に認めることができます。要するに、刑の執行中に何らかの形で刑務所の外に出ることを認めるのです。
 もう1つは、自由刑の執行前の個別化です。驚くべきことですが、刑罰適用裁判官は、上記の拘禁の緩和ないし解除の措置を、2年以下の実刑が言い渡された者に対しては、その刑が執行される前に認めることができます。これにより、たとえ判決裁判官によって実刑が言い渡されたとしても、完全な自由の剥奪を回避することができます。
 いずれの手続きも、受刑者の職業・教育的活動および医療上の理由等を考慮し、刑の執行のあり方を変更、すなわち個別化するのです。これらは「刑の修正(aménagement de peine)」と呼ばれています。

刑の執行手続きの適正化

 また注目すべきは、現在ではこうした手続きが、フランス流の言い方をすれば「司法化(judiciarisation)」ないし「裁判化(juridictionalisation)」されているところです。すなわち、この手続きは、刑罰適用裁判官の職権のみならず、受刑者自身の申請によっても開始することができます。申請を受けた刑罰適用裁判官は、一部の措置を除き対審弁論を開き、理由を付した決定をもって許可または不許可を言い渡します。この際、必要であれば受刑者は、弁護士の援助を受けることも可能です。また受刑者は、決定に不服がある場合、控訴院刑罰適用部に対して控訴することも認められています。さらに当該部の決定は、破毀院への破毀申し立ての対象となっています。これにより、例えば仮釈放を受刑者自身が刑罰適用裁判官に請求し、審問において自己の意見を述べ、その決定に不服を申し立てることもできるのです。これは刑の執行手続きの適正化とも言えるものでしょう。

日本における刑の個別化と手続きの適正化をめぐる課題

 それでは、フランスの制度から日本に対してどのようなことが言えるでしょうか。
 近年、日本の仮釈放率は、一時的に50%を切る水準まで低下しました。ここ最近はやや持ち直しましたが、それでも4割強の人が満期で釈放されています。また仮釈放時点での刑の執行率は、90%以上の人が3割を超え、80%以上の人も含めると8割を超えます。しかも、この割合は年々高くなっています。無期刑受刑者の仮釈放も、近年は30年を超えなければまず認められなくなっています。日本の刑法典は有期刑であれば3分の1、無期刑であれば10年経過後に仮釈放を認めることが可能であり(28条)、刑の個別化の余地を広く認めていますが、実際には必ずしも活用されていません。また現行の受刑者処遇法が認める外出・外泊および外部通勤作業といった措置も、その運用は低調です(2006年から2016年末までに外出121件・外泊15件、2016年4月末時点で外部通勤作業10庁21人)。そして受刑者は、こうした措置を地方更生保護委員会や刑事施設の長に自ら請求することは認められておらず、決定に対する不服申し立てもできません。刑の個別化と手続きの適正化の点で、日本はまだ課題を残すと言えそうです。

のぞましい刑の執行のあり方とは何か

 近時、刑事司法における罪を犯した高齢者・障がい者への対応が問題となり、様々な施策が行われています。刑務所に入る必要性がないような人に対するいわゆる「入口支援」や、刑務所から出る人に対して社会復帰を援助する「出口支援」と呼ばれるものです。これは日本における刑の個別化や適正化の問題がある局面で顕在化したもののようにも思えます。そして、これら問題を解決するための制度的な枠組みとして、フランスの刑罰適用裁判官(特に刑の修正手続き)が参考になるのではないかと考えています。
 もちろん、歴史や文化が全く違う国の制度をそのまま日本に当てはめても、期待する成果を得ることは難しいでしょう。また制度的な枠組みのみならず、何を目的としてどのような処遇を提供するのかといった中身の問題も軽視できません(この点では、さしあたりグッドライフ・モデルが参考になると考えていますhttp://www.ritsumeihuman.com/essay/read/id/161)。そうした個々の問題をクリアにしつつ、適切な形で刑を個別化し、適正な手続き保障を備えた刑罰執行制度を構想することが、今後の課題であると考えています。

参考文献

  • 相澤育郎(2015)「フランスにおける刑罰適用裁判官の歴史的展開」龍谷法学48巻2号:177-219頁
  • 相澤育郎(2016)「フランスにおける刑罰適用裁判官の制度的展開(1)」龍谷法学48巻3号:273-324頁
  • 相澤育郎(2016)「フランスにおける刑罰適用裁判官の制度的展開(2・完)」龍谷法学49巻2号:233-283頁

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