えっせい

「えっせい」(~2010年度)一覧へ

より
「シドニー大学にて4 修復としての脱暴力・非暴力への関心の深まり」

筆者: 中村 正   執筆: 2004年 月

産業社会学部教授[br]中村 正筆者は2004年度前期まで学外研究のため一年間シドニー大学に滞在。
昨秋帰国。
本稿は当時現地で執筆されたものである。

家庭内だけではない暴力の広がりのなかで、私の客員研究員としての関心はより鮮明に縁取られることとなった。感触としては抱きながらも相互に結びつけることができていなかった三つの課題を抱えてオーストラリアにきた。一つは、暴力の社会病理学・臨床社会学的な関心である。男性性に由来する問題行動としての暴力について、以前からおつきあいがあるロバート・コンネル教授のもとで男性性研究の国際的動向を吸収すること(年来の課題である彼の主著 Masculinitiesの翻訳を完成させることをはじめとして)。二つは、マイケル・ホワイトMichael Whiteを創始とするナラティブ・セラピー Narrative Therapyあるいはナラティブ・アプローチ Narrative Approachのベースとなっている南オーストラリア州のアデレードにあるダルビッチセンターに出向き、セラピーの研修を受け、加害者・虐待者への行動修正のための具体的なセラピーの手法を学ぶこと。三つは、修復的司法Restorative Justiceの世界的牽引者であるジョン・ブレイスウェイトJohn Braithwaite教授(首都キャンベラにあるオーストラリア国立大学)の取り組みを家庭内暴力に応用する方策を探ることである。これらは私のなかでは家庭内暴力の加害者対応への関心として一つのものになっており、司法、心理、社会、教育などの領域が重なりあう重要な主題群を成している。

<strong class="fl" /> こうした世界をリードする研究や実践がなぜオーストラリアで創始されたのかは、やはり意味構成の磁場としての空間と場(トポス)が不可欠なものとしてあるのだと思う。今や少年司法や司法臨床では主流となっている修復的司法の源泉はオーストラリアやニュージランド先住民のもつ葛藤解決の伝統的な方策に由来するし、ナラティブ・セラピーは暴力や虐待など社会性のあるトラウマを対象にした実践をおこなうことが多く、南オーストラリア州ではアボリジニ社会で活躍するコミュニティセラピストの存在の大きさを知ることができた。男性性研究のコンネル教授は家族から国家までの暴力の同心円的拡大を懸念されている。

 暴力、ナラティブ、修復のテーマへの関心は、和解Reconciliationを主題にして多文化社会づくりをすすめるオーストラリア社会がもつトポス としての場において、ひとつの連続的な位相を成すものへと私自身のなかでは再構成されつつある。臨床の諸課題が生成し、それらを理解するには、歴史性と社 会性が深く刻み込まれた場に身を置くことが大切だと思う。場に臨む感覚としての臨床感あるいはフィールドワーク的心象とでもいえるだろう。

</strong class="fr" /> ちょうど10年前に在外研究をしていた米国(カリフォルニア州立大学バークレー校)の家庭内暴力加害対策の発想は徹底した個人主義を基調にしていた。罰と しての加害者対応である。オーストラリアで見聞している、それとはまた異なる発想をもつアプローチを加味した非暴力・脱暴力への諸実践は、コミュニタリア ニズム的な関心である。それは臨床的援助の社会性を考える社会病理学・臨床社会学の視野を広げてくれた。しかし、知れば知るほどなお多くの課題も見えてく る。無知の知は学問に人を駆り立てる源泉であることを実感しつつ、豊かな時間を過ごさせてもらっている。
さて、問題は帰国後である。日本社会の病理的現実のなかで、いかなる社会臨床的実践ができるかだ。

一覧に戻る

バナーエリア

刊行物

立命館人間科学研究(刊行物)

おすすめ

facebook 立命館大学人間科学研究所メールマガジン登録

リンク

対人援助学会(ASHS:Japanese Association of Science for Human Services) 立命館大学生存学研究センター
サイトポリシー | 個人情報保護について | サイトマップ | お問合せ | 参加研究者ページ
アクセシビリティ方針