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インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究より
「色覚障害について考える」

筆者: 徳永留美 (千葉大学国際教養学部助教)   執筆: 2016年 4月

「見る」ということ

図1.左眼の網膜位置に対応した桿体・錐体の分布密度(感覚知覚ハンドブック p.924 図18・5・1) 私たちは普段の生活の中で、見る行為自体を意識していない。しかしながら、視覚で得る情報は生活に重要な情報となっている。私たちが得る視覚とは、外界の光が眼の底にある網膜に到達し、そこで生じる信号が大脳で処理された結果である。網膜は、いろいろな種類の視細胞の集合で構成されており、眼球の内側を覆っている。外界の光は、初めに「錐体」と「桿体」という細胞に吸収される。図1は、網膜におけるそれらの細胞の分布を示している。横軸は自分の見ている点をゼロ度とした場合の視角で、縦軸が細胞の密度である。錐体の密度は視野中心部に最も多く、中心から離れると極端に数が減少している。一方、桿体は中心部よりも周辺部に分布している。錐体は明るい所で機能し、色知覚に寄与している。桿体は光に対する感度が高いため、暗い所で機能し、夜でも物が見えるのは、この桿体のおかげである。色覚は、視野の中央、つまり自分が焦点を合わせている部分が最も機能していることになる。

色覚障害の理解

 色覚障害は、錐体の細胞の色素に問題がある先天的な場合と、視神経や脳の損傷などによる後天的な場合がある。日本国内の先天的な色覚異常者の割合は男性の5%、女性の0.2%といわれている。
 学校保健安全法施行規則によると、児童生徒等の色覚の検査は、平成15年から健康診断の必須項目から削除されていた。これは、色覚異常によるいじめなどから児童生徒を守る意図があったと考えられる。しかしながら、自身の色覚特性を知らないまま卒業を迎えた生徒が、就職活動の際に初めて色覚による就業規制に直面するという実態の報告が挙げられた。これに伴い平成26年4月に、色覚の検査について一部改正となった。

「 ①学校医による健康相談において、児童生徒や保護者の事前の同意を得て個別に検査、指導を行うなど、必要に応じ、適切な対応ができる体制を整えること、②教職員が、色覚異常に関する正確な知識を持ち、学習指導、生徒指導、進路指導等において、色覚異常について配慮を行うとともに、適切な指導を行うよう取り計らうこと等を推進すること。
特に、児童生徒等が自身の色覚の特性を知らないまま不利益を受けることのないよう、保健調査に色覚に関する項目を新たに追加するなど、より積極的に保護者等への周知を図る必要があること。」
(文部科学省 学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知)より)

 実際にパイロットや航海士などのように、色情報から生命の危機に対する事象の判断をする必要がある職種が存在しており、過去には、信号の色の見間違えが列車や大型船舶の衝突事故につながったことが報告されている。また色覚異常者に対する日常生活における調査によると、色覚異常者は食物の鮮度の判断、車や壁、化粧品など身の回りの色を選ぶ時に悩むことが挙げられている。総務省統計局の調査によると、平成27年9月の日本人男性の人口は6090万人で、男性の304.5万人が色覚異常者と算出できる。これは京都市の人口のおおよそ2倍であり、男性の色覚異常者だけでも無視することのできない数であることが分かる。

図2.色覚検査(a) 石原色覚検査表 (b)パネルD15テスト

 図2は色覚検査のツールで、a)は石原色覚検査表、b)はパネルD15テストである。これらは色の見えを利用して行う簡易の色覚テストであり、色覚異常の有無とタイプを知ることができ、学校や眼科において短時間で容易に検査することができる。さらに詳細な色覚異常のタイプとその程度を調べたい場合は、眼科医においてアノマロスコープなどで検査する方法がある。色覚異常は個人差が大きく、自分自身の色覚の特性を理解するためにも、どの色覚のタイプか、そして、色覚異常の場合にはその程度を把握しておくことが必要であると考えられる。

支援の可能性

 色覚の特性により、それが障害をもたらす場合があるという事実を周知し、色覚異常者の色の世界を理解し、社会による支援の在り方を考えるべきである。近年、多様なユーザの様々なニーズに応じて物をデザインするユニバーサルデザインという考え方がある。国内においては日本人間工学会がユニバーサルデザインの実戦ガイドラインを提案するなど、学術的な動きは広まっている。この中には、色覚について考慮したカラーユニバーサルデザインがある。例えば、自治体によっては公共性のある刊行物の色の配色に考慮し、色覚異常者でも何の情報が大切なのかが感覚的に伝わるよう工夫されている。最近では、スマートフォンなどのゲームにおいても、色覚異常者に区別が付きやすくなるように要素の色を変える設定が追加されるなど、デザインする側が色覚異常者が見ている世界を理解し、工夫する取組みもある。
 教育現場においても、色覚の特性を理解し、どのような工夫をすれば色覚異常者にも正しい情報を伝えることができるのかという検討を積極的に進める必要があると考える。そのような環境が整えば、色覚検査の重要性を保護者に理解させ、色覚検査を奨励することも容易となり、色覚異常者が自身の色覚特性を正しく理解し、自分自身で事故防止などの対策を講じることもできるようになる。色覚障害者の色の世界を理解する事が、色覚障害者に情報を提供することを可能にし、色覚障害者の日常における多くの問題を解決することに繋がるものと確信している。

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