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インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究より
「地域住民を支える包摂的な医療実践を目指して」

筆者: 福田茉莉 (衣笠総合研究機構 専門研究員)   執筆: 2015年 12月

地域包括ケアシステム

 今後の高齢者人口の見通しについて,厚生労働省は,2055年には3,626万人(全人口の39.4%)になると推測しています。さらに,現在よりも高齢者の一人暮らしや夫婦のみの世帯が増えると予想されており,今以上に医療や看護,介護の重要性が高まると考えられています。
 最近では,高齢者の自立的な生活を支援することを目的に,地域で支える包括的な支援・サービスを提供するための体制(地域包括的ケアシステム)づくりが推進されています。この地域包括的システムは,医療や介護だけでなく,生活支援や健康維持などを一体的に提供する支援体制をそれぞれの地域特性や住民のニーズに適した形で構築することで,病気を抱えても地域住民が住み慣れた地域で心身ともに充実した生活を送れるようになることを目指しています 。

「支える」医療共同研究プロジェクト

 では,地域住民に要請される医療機関,つまり,地域住民を「支える」,そして地域住民に「支えられる」医療機関とはどのようなものでしょうか。この疑問を明らかにするために,私たちは医療者と研究者で構成される「支える」医療共同研究プロジェクトを立ち上げ,地域密着型の病院と共同で研究を進めてきました。このプロジェクトでは,病院に勤務する医療スタッフの方々だけでなく,利用者である地域住民の方々にもインタビュー調査をおこない,現場の体験や利用者の「声」に基づく包摂的な医療実践のあり方を提案することを目指しています。

医療現場で生じる障壁(バリア)―病院へ行かない、病院へ行けない

 例えば,病院へ通うという行為,それ自体にもさまざまな障壁(バリア)が存在しています。病院が怖い,嫌い,できるだけ行きたくないという人は少なくないでしょう。また,過去の経験や医療スタッフとのかかわりの中で病院に行かないと選択をする人もいるでしょう。しかし,地域住民の中には,病院に行きたくても行けないという人もたくさんいます。生活が苦しいため医療費が支払えないかもしれないという不安,雇用形態による通院や入院の困難さ,心身の障害による外出困難など,個人が抱える障壁はさまざまです。また,病院へ救急搬送された際に,はじめてその人の生活状況に気づき,無職であったり,身寄りがなかったり,不衛生な生活環境にあったりと,経済的な困窮だけでなく社会からも孤立している状態であることが発覚する事例もあります。

地域とともにある医療実践を目指して

 したがって,地域住民の方々が「病院へ行かない」のか,「病院へ行けない」のかの見極めが,地域を包括する医療実践を考えるうえでの第一歩になります。両者は医療を受診していないという意味では同じですが,「病院へ行けない」理由となる個人では解決できない障壁に対しては,制度的側面や社会的側面からの支援が必要となります。地域とともにある医療実践を考える際には,まずその地域の特徴を把握し,地域住民が通いやすい医療体制づくりをしなければなりません。それは医療者―患者間の信頼関係を構築するためのコミュニケーションをはじめ,社会保障制度に関する相談窓口や地域住民と共同でおこなう健康・見守り活動など実にさまざまです。
 高齢者や病者の自立的生活を保障する包括的なケアシステムを考える際には,医療機関内での多職種間による組織連携,地域医療連携室を中心とした地域との連携,患者や患者家族,地域住民を取り巻く社会生活との連携に基づく体制づくりが,今後,よりいっそう重要になるでしょう。

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