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インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究より
「高齢者支援チームの継続力」

筆者: 北原靖子 (川村学園女子大学教授 / 2014年度人間科学研究所客員研究員)   執筆: 2015年 10月

続き広がる音読計算活動

 立命館大学を会場に学会が開かれたときのことです。お抹茶ありの掲示を見て休憩コーナーに出向いた私は、生き生きとしたシニアの皆様からおもてなしを頂きました。当時、一人暮らしが危うい母がどうなることか悩んでいた私にとって、暖かく眩しいばかりの姿でした。それをきっかけに、私はサバティカルを使って高齢者支援チームの音読計算活動を実地体験させて頂くことになったのです。
 音読計算活動は大学内だけで10年以上続いており、抹茶を振舞ってくださったのは、「卒業」後も自主的に活動を続けている創生の会(同窓会)のメンバーでした。延1500人以上が参加して、このようにご縁が続き広がる活動の秘訣は、どこにあるのでしょうか。

学習者にとっての継続意義

 行動分析に照らせば、活動が続くのは、本人にとって「得」があるからです。もちろん高齢者支援チームは、前頭葉機能の維持向上効果を科学的に検証しています(吉田et al.,2014)が、直接的効果が見込めるのはだいぶ先です。「よかったな、また行こう」となる直近の得(心理報酬)は、何でしょうか。「面白く楽しい」のが何よりと考えそうですが、私の母は「(昔のように)楽しくない」と言って、長年通っていた絵手紙教室と疎遠になってしまいました。目や手が思うに任せないことも増え、認知症も少し入って不安が強くなったとき、いわゆる趣味活動を続けるのは重荷になっていたのです。
 それに対して音読計算のプリントは、小学生中学年なら十分できるくらいの平易な課題で構成され、一回あたり正味10分もあれば終わります。ですから今度もきっとできると思えるし、実際にできるし、終われば「100点です!」と肯定的に返してもらえ、そのことばに嘘がないと自分でもわかります。音読計算活動を通して「安心感」「自己効力感」「真実味ある肯定的反応」が得られることが、年を重ねた学習者の参加継続意欲をしっかりと支えているのでしょう。

サポーターにとっての継続意義

学習活動のふりかえり  一方、学習活動を無償で支えるサポーター(学生や地域の方々)も、毎回何かしら心理的報酬を得ているはずです。学習者の音読計算を見守る役に立てたという「自己効用感」は共通のベースとなるでしょうが、活動継続要因には複数の観点があり、ライフサイクルによっても影響が異なるとされています(桜井,2005)。中高年の私の場合は、サポーターを体験して、学習活動後毎回行うふりかえりが印象的でした。各学習者の様子はどうだったか、プリントのレベルは適当か、やりとりはこれでよかったかなど、活動が終わったあと支援チームスタッフの司会のもとで和やかでも真剣な話し合いがあり、時にはサポーター同士で知恵を出し合います。この暖かく建設的な「集団・組織サポート」に接するたび、直接相談しなくても、老親や自身の将来への不安が和らぐ思いがしたものです。
 私たちは孤独ではなく、なにか手立てはあるという「希望」は、高齢化が急速に進み先行き不透明な今日社会において貴重な「手応え」ではないでしょうか。この希望を絶やさず、サポートの輪がいっそう確実に広がってゆくことを祈っています。

文献

  • 桜井政成(2005).ライフサイクルから見たボランティア活動継続要因の差異.The Nonprofit Review, 5,2,103-113.
  • 吉田甫・孫琴・土田宣明・大川一郎(2014).学習活動の遂行で健康高齢者の認知機能を改善できるか-転移効果から-.心理学研究,85,2,130-138.

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