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生産的環境を規定する認知基盤の解明より
「よいアイデアが生まれるとき,生まれないとき」

筆者: 服部雅史(文学部 教授)   執筆: 2015年 7月

日常生活の中の創造性

 きわめて創造的活動が,継続的に求められるような仕事もあるが,そんな仕事に就いている人はそれほど多いわけではない。しかし,その反対の覚えたことを想起するだけの生活というのも考えにくい。たとえば,買ってきた瓶詰食品の蓋をどうやって開けるかといった些細な日常的「問題」でも,解決するために,ちょっとした工夫が必要になることがある。このような問題を解決する際に,どうしたらよいアイデアが浮かぶだろうか。
 こういった研究テーマは,日常の生活環境の改善といった観点からも重要である。もちろん,職場や学校などの創造的アイデアの生成が期待される生産的場面においても,幅広い応用が想定可能で,研究の有益性は誰の目にも明らかであろう。しかし,そのような研究の成果として,現実社会に応用できるようなものは,まだほとんど上がっていないと言っても過言ではない。創造性や洞察に関する心理学研究の歴史は,実は非常に古いのであるが,それにもかかわらず,そうなのである。その理由は,一言でいえば,このテーマが難しいからということになるが,この手のテーマには,どのように研究したらよいのかがわからないという難しさもある。

よいアイデアは突然やってくる

 それは,よいアイデアが浮かぶ瞬間について,そのプロセスを自分自身で知ることが難しいという事実と関係している。よいアイデアは,突然どこかからやってくるようにしか感じられない。つまり,このことは,アイデア生成過程の重要な部分が潜在的(無意識的)であることを意味している。
 そこで,本プロジェクトは,創造的アイデア生成過程を探るために,潜在手がかりを用いて潜在認知過程を探っている。潜在手がかりとは,「見えない」あるいは「気づかない」手がかりを指し。その提示手法としては,閾下プライミングや不注意性手がかりを用いる方法がある。閾下プライミングとは,視覚マスキングなどによって,「見え」の意識を伴わないように手がかり情報を提示する方法であり,不注意性手がかりとは,手がかり自体は見えているが,対象課題との関連性に本人が気づいていない情報を指す。こういった潜在手がかりが,どのようなときにどのように取り込まれて解決を促進するか(あるいは解決を阻害するか)を調べることによって,アイデア生成の潜在的認知過程を探ることが可能になる。

潜在ヒントの有効性と不安定性

 まず,私たちは,手がかりが閾下プライミングとして提示されても,洞察問題解決に活用できることを明らかにするところから開始した (Hattori, Sloman, & Orita, 2013)。こうしたことは,これまでに明らかにされていなかったからである。さまざまな洞察問題を使って調べたところ,閾下プライミングを提示すると,提示しない場合にと比べて3倍程度まで正解率が上昇する場合もあることがわかった。
 こうした研究を続けるうちにわかってきたことは,プライミングの効果が必ずしも安定したものではないということである。潜在ヒントを提示しても,ほとんど効果がなかったり,逆に正解率が下がったりすることもあった。これは,私たちがものを見る際に,単に受動的に機械的に情報を受けて入れているわけではなく,積極的・能動的に取捨選択を行い解釈していることを思い起こせば,それほど不思議なことではない。つまり,「見え」の気づきを伴わない視覚情報も,(無意識的に)コントロールされている可能性があるということである。
 そこで,認知的負荷と潜在情報の効果の関係を調べることにした。情報の取り込みがコントロールされているならば,負荷をかけて認知資源を消耗させれば,コントロールが弱まり,潜在ヒントが効果を増すと予想される。これは,極めて反直感的な結果である。というのも,通常,二重課題法によって負荷をかけると,主課題の成績は悪化するか,せいぜい同じレベルにとどまるからである。しかし,潜在ヒント提示状況下では,負荷が問題解決成績を上昇させると予想される。実験の結果,予想通りの結果を得た (服部・織田, 2013)。そこで,これを「認知的負荷の逆説的促進効果」と呼ぶことにした。

抑制の効果と逆効果

 次の疑問は,このようなコントロールが,どのようにして起きるのかということである。それに関して,2つのモデルを考えることができる。1つは,潜在的ヒント(外生的手がかり)が入ってこないように,単に遮蔽するというモデル(遮蔽モデル),もう1つは,いったんは入力された外生的手がかりが抑制されるために使われないというモデル(抑制モデル)である。もし,後者のモデルが正しければ,認知資源が十分に利用可能で,コントロールが十分に強くはたらくとき,たとえば,正解またはそれに近い情報を潜在提示すると,抑制機能のせいで,正解の内的な生成までも抑制されてしまい,かえって正解率が低下することが予想できる。実験の結果,予想通りの結果を得た (服部・織田・西田, 2015)。そこで,これを「コントロールの逆説的抑制効果」と呼ぶことにした。

今後の展開

 コントロールがどの程度の持続性をもち,リバウンド効果のようなものがあり得るのかどうか,認知資源は,コントロールに使われると同時に,アイデアの内生的促進にも有効のはずであるので,資源配分などの要因が創造性に対してどのように影響するのか,パーソナリティ要因や感情などの要因がどのように関わってくるのか,他者を含む環境要因の影響などについて,今後,さらに研究を進めていく予定である。

引用文献

  • Hattori, M., Sloman, S. A., & Orita, R. (2013). Effects of subliminal hints on insight problem solving. Psychonomic Bulletin & Review, 20, 790-797. doi: 10.3758/s13423-013-0389-0
  • 服部雅史・織田涼 (2013). 認知的負荷が洞察をもたらすとき:洞察問題解決におけるプライミングと二重課題の効果 日本心理学会第77回大会 札幌コンベンションセンター 9月21日
  • 服部雅史・織田涼・西田勇樹 (2015). 潜在手がかりがアイデアを抑制するとき:遠隔連想における負の閾下プライミング効果 日本認知心理学会第13回大会 東京大学 7月5日

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