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「インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究」プロジェクトより
「倫理と心理の基礎的な役割について」

筆者: 小泉義之 (先端総合学術研究科 教授)   執筆: 2014年 7月

はじめに

 本プロジェクトの「社会的包摂と支援に関する基礎的研究」チームの研究者は、主として本学の生存学研究センターでの研究活動や社会活動を通して、本プロジェクトを進めています。詳しくは、それぞれのホームページをご参照下さい。
 ここでは、本プロジェクトにいうところの「連環」、あるいは、本チームにいうところの「包摂」「支援」の学問的な基礎をなすと見なすこともできる倫理(学)と心理(学)について、最近、私が研究を進めているところの一端を書き留めておきます。

倫理と心理の流行

 現在、さまざまな場所で、多種専門職の連携の必要性が主張されています。では、その主張はどのように正当化されているでしょうか。多くの場合、ある現場での実践に関わって多種多様な問題が提示され、その大半が倫理的な問題や心理的な問題にまとめられた上で、かくかくしかじかの問題があるのであれこれの連携が必要であると論じられています。つまり、従来からの各種専門職の職務と職責の守備範囲をはみ出る問題、すなわち、各種専門職の職業倫理の範囲をはみ出る問題が、倫理的な問題と心理的な問題に取りまとめられ、その上で、連携の必要性が説かれています。そして、いわばその隙間を埋めるために、従来の守備範囲を倫理的・心理的に拡張したり、従来の専門職内部で新たな職務を創設したり、隙間を埋めるような新たな準‐専門職を創設したり、倫理学専門家や心理学専門家がその隙間に参入したりしています。ですから、多くの専門職は専門知識と専門技能の習得に加えて(応用)倫理学や(応用)心理学も習得して実践しなければならないと考えられており、そのようなことが、昨今の倫理と心理の流行の原因の一つにもなっています。

専門職の職分

 現在、専門文献を見る限りでは、以上のような動向に対して、ほとんど疑問が向けられていません。各種の専門家は、口を揃えて連携の必要性を説き、おのれの領分の拡張を是認しています。しかし、たいていの物事には光と影がつきものなのですから、この場合もそうではないのかと眼を凝らしてみる必要があります。
 連携を当然視する動向に対して、私自身は幾つかの疑問を抱いています。まだ具体例に即して論ずる準備はできていませんので、一般的に三つほど述べておきます。第一に、現場でさまざまな問題が発生するのは確かなのですが、それらが倫理問題と心理問題の二つにまとめられがちなために、そうではない問題が専門家の視界から消されてしまっているということがあります。ただし、そのような問題とその解決は、そもそも専門家の守備範囲にはないし、そこに収められるべきではないとも考えられますので、ある意味で、これは小さな論点になります。第二に、これは連携そのものに関わる疑問ですが、専門家は連携の必要性を説きながらも、その連携を通して何を目的としているのかについて、また、その目的の実現の責任を誰が負うべきかについて考えずとも済むようになっているということがあります。しかし、これも、前者と同様に、ある意味では小さな論点です。しかし、第三に、倫理と心理を連携のいわば接着剤として濫用してきたがために、各専門職の職責・職務・職分の境界が曖昧になっているということがあります。このことは、各専門職の実践に対して、もっと言うなら、その労働条件に対して、小さくない影響を及ぼしていると思われます。さらに言うなら、各専門職固有の倫理を蝕んでもいるのではないかと思われます。
 いまのところは、一般的で抽象的な書き方しかできませんが、以上の疑問を切り口としながら、本プロジェクトを通して、基礎とされる倫理と心理のあるべき姿を提示していきたいと考えています。

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