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情報の有機的連関による社会的支援の可能性:コミュニケーション・ツールとしてのアーカイブより
「情報の有機的連関をもたらすものはなにか?: “3rd International Seminar of Cultural Psychology”参加報告」

筆者: 福田茉莉 (衣笠総合研究機構 専門研究員)   執筆: 2014年 7月

研究プロジェクト概要

 「情報の有機的連関による社会的支援の可能性:コミュニケーション・ツールとしてのアーカイブ」は2013年度人間科学研究所「萌芽的プロジェクト研究助成プログラム」に採択され,2013年度より開始されました。本プロジェクトでは,当事者の経験の語りを蓄積し,公開・伝達するという意味での「ナラティヴ・アーカイブ」に注目した研究を実施しています。オープン・システムの視点から,個人と社会,情報(アーカイブ)をとらえ直し,アーカイブを媒介として,個人と社会(文化や制度を含む)をつなげるような,情報の有機的連関およびコミュニケーションがもたらす社会的支援の可能性を提案しています。
 本プロジェクトが取り組むべき課題のひとつが,情報の有機的連関プロセスの記述に関する方法論的課題です。つまり,ある個人がアーカイブ(情報)をどのように個人内に取り込むのか,そして情報の有益(あるいは無益)の判断はどのようになされているのか,というプロセスであり,研究者はこのプロセスをどのように記述することができるのかということです。

3rd International Seminar of Cultural Psychology

3rd International Seminar of Cultural Psychologyの様子  この課題を解決する方法論を学ぶため,執筆者は“3rd International Seminar of Cultural Psychology :Conceptualizing Catalysis in Theory and Practice”に参加しました。“International Seminar of Cultural Psychology”は文化心理学を学ぶ研究者や学生のために隔年で開催される研究セミナーであり,本年度はブラジル,バイーアで4日間,実施されました。ここでの文化心理学は,比較文化心理学とは異なり,文化を個人の心的システムに属し,その中で機能的役割を果たすものとして捉えています。人間のパーソナリティは,記号的媒介が様々なレベルで統合されたシステムであり,社会的文脈内における個人の包括体系的な分析に基づいて,個人と文化的営みに関わるモデルが提案されています(文化心理学の詳細については,Valsiner, J. (2007) Culture in Minds and Societies: Foundations of Cultural Psychology. サトウタツヤ(監訳). 新しい文化心理学の構築:〈心と社会〉の中の文化. 新曜社.をご参照ください)。

非可逆的時間の中で変容する個人の心的システム

 本セミナーにおいて,主題となっていたのが,非可逆的時間の中で変容する個人の心的システムに関する議論です。例えば,複線径路等至性モデル(TEM)では,非可逆的時間の中である個人がとりうる径路を図のように示しています(Sato, Hidaka and Fukuda, 2009)。
複線径路等至性モデル(TEM)(Sato,Hidaka and Fukuda,2009) 
 図のようなとき,径路aに至るには,まず分岐点cに至る必要があります。そして,分岐点cに到達した際,径路aに到達するか,径路bに到達するかは,それを促進する社会的ガイダンス(SG)とそれを阻止する社会的方向付け(SD)との相互性により変わります。径路aに進むか否かは,aがもつ記号の価値と個人内における多数的自己間の対話により選択されます。
 本セミナーではさらに,径路aがもつ記号の価値を「記号」として成立させる「触媒」の作用に焦点を当てた研究報告が実施されました。子どもを失った母親の喪失や大学院生の就学,沈黙の意味,子育てなど,さまざまな心理学領域から研究成果が報告され,心理学における「触媒」概念とその定義について議論されました。

個人の心的システムにおける情報(アーカイブ)

 筆者の研究関心である情報の有機的連関に話を戻しましょう。すなわち,ある個人がアーカイブ(情報)をどのように個人内に取り込むのか,そして情報の有益(あるいは無益)の判断はどのようになされているのかという議論です。
 文化心理学における上述の理論や方法論は,情報の有機的連関プロセスを描くうえで,重要な示唆をもたらすでしょう。例えば, 個人がある行動を起こすうえで,情報(アーカイブ)を収集することが,行動を促進する記号として機能するかもしれません。あるいは,もし同様の状態の人々が,同じような情報を入手し,同じ行動をとったとしたら,その情報は,ある状態の人にとって,ある行動を生じさせるための分岐点と考えることもできます。この行動が向社会的行動であれば,その情報はすなわち社会的に孤立しがちな人を支援する情報(アーカイブ)のひとつとなるでしょう。
 非可逆的な時間の中で変容する個人の心的システム上で,アーカイブがどのように機能しているのか(「記号」なのか,ある記号を記号たらしめる「触媒」なのか,分岐点なのか)を明らかにすることは,ある個人が情報を受容する微視発生的な記述であり,情報的支援のあり方を明らかにするひとつの支援モデルと考えることもできます。

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