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「インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究」プロジェクトより
「発達の多様性と法則性」

筆者: 竹内謙彰 (産業社会学部, 教授)   執筆: 2014年 5月

自閉症スペクトラム障害の多様性

 自閉症スペクトラム障害などの発達障害の診断を受けた人たちは、診断を受けたという点では共通性があるのだが、その特性の現れ方は人それぞれで異なっており、きわめて多様である。そもそも、「自閉症スペクトラム」という用語自体、障害特性の多様性を表現するものであり、特性の現れ方が強く明瞭な人からそれほど目立たない人まで様々なグラデーションがあることを意味しているのである。近年急速に発展した、疾病や障害の要因に関する遺伝子レベルの研究でも、自閉症スペクトラム障害を生じさせる特定の遺伝子は見いだされず、遺伝子から見れば一人一人異なる多様な症候群であることがわかってきているのである*1
 自閉症スペクトラムと呼ばれる子どもたちが、共通点を持ちながら一人一人はそれぞれ個性的な存在であって困難の現れ方も様々であることは、いわば当たり前のことではある。とはいえ、自分自身は7年前に立命館大学に移ってきてからそうした子どもたちの療育活動に参加するようになって、体験的に感じるというか、わかるようになってきたと言ってよい。

対象者を一人一人ユニークな主体者としてとらえる

 最近、自閉症スペクトラム障害の当事者とそのお母さんから、特別なニーズに関するインタビュー調査を行ったのだが、特に複数のお母さんたちから発達支援においても一人一人の違いを踏まえた特性理解の必要性が指摘されていた点は、とても重要であると考えている
*2。障害を指摘され、あるいは診断を受け入れること自体は、適切な支援につながる重要なステップだと考えられるが、他方で、支援を行う側にある種のステレオタイプな態度を生じさせるリスクもあるのだ。実際、何人かのお母さんが経験されたのは、自閉症児のことをわかっていると自信を持っている支援者との間で生じた結構厄介なディスコミュニケーションであった。
 何らかの困難を抱える人に対して、その困難に障害というラベルが必要である場合もあるのだが、何らかの援助を行う上では、対象者を一人一人ユニークな主体者としてとらえる視点が必要であることは、いくら強調してもしすぎるということはないだろう。この点は、こうした人たちへの対人援助を行っていくうえで、基本的なスタンスとして考慮しておかなくてはならない重要なポイントだと言ってよいと考える。

発達における法則性をとらえる

ベトナムの幼児園での予備調査時(2012年)の様子 一人一人が異なっていることをとらえる重要性を述べてきたが、他方で、人間が発達していく筋道の法則性をとらえる視点も重要であると考えている。自分がかかわっているプロジェクトの中で、幼児期における発達チェックリストの作成に取り組んでいるが、この取り組みは、人間の発達の姿が多様でありながら、そこに規則性や適時性が存在していることを前提にしているものでもある。ただし、従来の知能検査や発達検査が採ってきた統計的な信頼性や妥当性に依拠するだけでなく、発達の質的転換などの法則性*3をとらえるものとしたいという野心を持って取り組んでいる。
 現在、日本とベトナムでそれぞれデータ収集がなされており(写真参照)、分析にも着手し始めている。日本でのデータ分析の成果の一部は、2014年3月に開催される日本発達心理学会大会のラウンドテーブルで報告される予定である。今後、両国のデータ分析が進むことで、文化間での同一性と異質性がそれぞれ明らかになることが期待されるが、特に、同一性の中に発達の法則性を見出すことができるのではないかと期待しているところである。
 発達の法則性を踏まえた発達チェックリストの作成と活用は、発達の多様さを尊重しつつ、適切な支援を構想していくうえでの重要な手がかりを与えてくれるものとなることが期待されるのである。


  • *1 千住淳(2014)『自閉症スペクトラムとは何か: ひとの「関わり」の謎に挑む』ちくま新書.
  • *2 竹内謙彰(2012)「高機能自閉症スペクトラム障害者の特別なニーズ―青年期後期~成人期の子どもを持つ母親に対するインタビューに基づく分析―」『心理科学』33( 2), 46-63.
  • *3 理論的基礎としているのは田中昌人によって提唱された階層-段階理論(e.g. 田中昌人(1987)『人間発達の理論』青木書店)である。

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