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発達障がいのある人とその家族への包括的支援より
「ことばとの新しいつきあい方」

筆者: 谷晋二 (文学部・応用人間科学研究科教授)   執筆: 2012年 10月

ことばの便利さ

* 発達障がいのある子どもたちへの支援の中で、話し言葉や絵やサインを使ったコミュニケーションをどのように教えていくのかは、たいへんむつかしい課題の一つです。私たちは、言葉、あるいは絵やサイン、文字を使って、人との関係を調整し、便利に生活をしています。そのような便利なスキルを子どもたちが身につけて欲しいと願うのは、保護者の方も我々も同じです。ことばを学ぶことで、今ここにない物(たとえば、外出の時に靴がなかったら、「クツ」と言うことで、靴を要求するなど)を手に入れることができます。また、将来のことを考えて行動する(たとえば、明日は雨だから洗濯は今日しておこうとか、朝は渋滞するので早めに出発しようなど)ことも出来ます。なによりも、他の人といろいろな情報を共有する楽しさを味わうために、とても役に立つのがことばです。

ことばはどのように獲得されるのか

 私は、ことばがどのようにして形成されるのかという問題に大きな関心を持っていました。臨床的には、ことばをまだ獲得していないこどもたちに、どのようにしてことばを教えることができるのかという問題に取り組んできました(谷、2012)。1960年代から、行動分析学に基づいた言語行動(Verbal Behavior)の分析が進んできました。ことばは、無関係なもの同士を関係付ける能力から発展してきます。恣意的な関係づけ(arbitrary relating)の能力です。恣意的に関係付けられた関係が複合すると、直接学習していないような新しい関係が出現してきます(派生的関係)。これはAならばB、BならばCという関係を学習するとAならばCやCならばBなどの関係が自動的に生まれることを示しています。この能力が、言葉や象徴的機能の獲得に大きく関与していると考えられています。

ことばの不自由さ

  何かの障がいのために(例えば脳梗塞など)ことばを失ったとき、私たちの生活は大変不自由なものになりますが、ことばの通じない国に旅行に行っても、不自由さを体験します。
 ことばの不自由さは、それを失った時にだけあるのではありません。私たちは、ことばを使って、過去の出来事を思い出し、未来の出来事を予測することができます。また、あることばはそれを回避するような行動を私たちにとらせがちです。たとえば、「不安」ということばは、それを避ける行動をとらせやすくします(たとえば、不安な場面を避けるなどです)。
 ことばを身につけることで、過去の嫌な体験を何度も思い出したり、未来の出来事を憂慮したりすることも起きるのです。言語学者の丸山圭三郎(1983)は「シンボルによって過去と未来を作り、「今、ここ」という時・空を超え、不在の現存を知る」(p.68)と述べています。
 私たちは、ことばという能力を手放すことはできません。では、どのようにことばという能力と付き合っていけばいいのでしょう。
 私たちは、関係づけの能力を使って容易に様々な出来事を関係つけることができます。頭が良い→良い大学に行く→良い会社に就職する関係です。そういう関係は、頭が良いと良い会社に就職するという関係や、良い会社に就職している人は頭が良いという関係を、直接学習なしで生み出してしまいます。それらは恣意的な関係付ですから、正しくても間違っていても、作り出してしまうのです。
 さらに、その関係づけは私たちの行動をコントロールするパワーを持っています。言葉が持っている行動をコントロールするパワーは強大で、たびたび私たちを望まない行動へと駆り立てていきます。結果的に、私たちの生活が窮屈で、不安や恐れを回避することで満たされていくようになるかもしれません。
 ことばという能力とどのように人間が付き合っていくのか、それは人類が共通して持っているグルーバルな課題の一つなのではないでしょうか。これらからの人間科学の重大なテーマの一つは、言語能力が獲得されてきたプロセスの解明と人の行動や社会に及ぼす影響と対応力の開発であるのではないでしょうか。

文献

谷 晋二(2012) はじめはみんな話せない 金剛出版
丸山 圭三郎 (1983) 文化記号学の可能性 日本放送出版協会

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