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大学を模擬社会空間とした自立支援のための持続的対人援助モデルの構築より
「高齢者支援チームの目指すもの」

筆者: 孫琴(文学部 実習助手)   執筆: 2012年 4月

本学の名誉教授、守屋慶子先生は2009年6月に発行された発達心理学会のニュースレター(57回)で、発達という視点から「社会的還元」の意義や必要な条件、および自らの実践活動を詳しく紹介しておられます。人間科学研究所内に設立された高齢者支援チームの「音読」「計算」活動は、まさに守屋先生が提唱されたこの「社会的還元」の研究を目指した実践研究です。

学会において、この取組の研究成果を発表中の筆者

学会において、この取組の研究成果を発表中の筆者

活動内容

2002年に始まったこの実践活動は現在も進行中の活動です。活動内容は継続的な「音読」「計算」活動が高齢者の認知機能や日常生活にどのような効果をもたらすかを調査する介入研究です。そもそもの発端は川島(2002)の「簡単な音読・計算課題を遂行すると脳の前頭葉が活性化する」という発見にありました。この脳科学から見出された結果に基づいて、高齢者を対象に簡単な計算と音読の課題を課し、この介入が抑制、記憶などの認知機能に及ぼす効果を確認しようとする研究が始まりました。それが「脳を鍛える『音読・計算』活動」です。この活動は原則として1週間に3回の学習機会があり、1回の学習はおよそ20〜30分ほどで、実施者の指示に従って、小学4年レベル程度までの簡単な計算課題と文学作品などから引用された文章の音読課題を遂行します。実施者には、学習方法を学んだ施設職員、地域サポータ、インターンシップ生などが当たりました。

研究上の成果

高齢者支援チームで行った実践研究では、認知機能の維持向上が確認されただけではなく、学習者自らその効果を実感し、その変化を喜んで頂きました。例えば、ある学習者は「一年半前に脳梗塞で倒れて以来後遺症として左半身に不自由を感じながら、この教室に通って3ヵ月半になります。呂律が廻らなかったのが、音読のお陰で滑らかにしゃべれるようになったことを実感しています。脳梗塞のリハビリにこの学習がうってつけと喜んでいます」と言われました。このような実践研究を通して、我々研究者側は高齢者における様々な認知機能への加齢の影響とその「可塑性」に目を向けることができました。一度衰退した機能であったとしても、介入的な関わりによって維持向上する可能性があることが分かり、さらに人間の認知機能の柔軟性を実証的なデータの中で発見しました。

社会的還元を目指して

また、高齢者支援チームは「社会的還元」を進めるために、行政や日本老年行動学会京都支部と連携しています。現在の実践活動の範囲は老人ホーム施設をはじめ、立命館大学、京都市の北区、左京区、伏見区、老人保健セーターにまで拡大し、各行政や地域からの要請に応えるために、サポータの育成、定期的な研修・勉強会および実践報告会なども行っています。

今後の方向性と課題

「脳を鍛える『音読・計算』活動」は、「頭の体操」ともいえる学習的な効果に加え、人と人のコミュニケーションがその基盤にあると考えられます。そして、加齢による機能低下に関しては、学習者の認知機能の様々な側面で改善あるいは維持が確認されましたので、本当に脳を鍛える学習活動であると思われます。しかしながら、認知症による機能低下に対する予防や治療にどこまで効果があり、有効であるのか、効果的な介入方法も含めてなお課題が多く残されています。「社会的還元」を促進するためには、このような効果測定を実証的に積み重ねることが重要なポイントになると思いますので、これからもこの取り組みがますます順調に続けられるように、皆様からのお力添えをお願いいたします。

高齢者支援チームに参加しての感想

また、運営委員の一員としてこの実践活動を参加させて頂いたことを私はとても光栄に思っています。私は実践活動の中で学習者の皆様の学習効果を肌で感じながら、幾つかの感動的なエピソードを味わうことができました。また、たくさんの素敵な方々と出会い、自分が知らない日本の文化や、生活習慣などを教えていただきました。そして、学習者の皆様はじめサポータの皆様、運営委員の皆様のご協力で、順調に研究を進めることができました。これらのデータに基づいて、様々な学会に論文を発表することもできました。この実践活動は私にとって本当に有意義で貴重な研究活動となりました。この場をお借りして、関係者の皆様に感謝を申し上げます。

実践活動や研究成果の詳細につきましては下記文献をご参照いただきますようお願いいたします。

引用文献:

  • 守屋慶子(2009).発達心理学の社会へのエントリーを考える―「相互還元」を求めて.
  • 発達心理学ニューズレター57回.
  • 川島隆太(2002).高次機能のブレインイメージング.医学書院.
  • 大川一郎・吉田甫・土田宣明(2007).認知症の高齢者に対する音読・計算課題の遂行が
  • 認知機能に及ぼす影響.高齢者のケアと行動科学,Vol.12.(2), P28-37.
  • 孫琴・吉田甫・土田宣明・大川一郎(印刷中).学習活動の遂行によって認知症高齢者の
  • 抑制機能を改善できるか.高齢者のケアと行動科学,Vol.17(1),印刷中.

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