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障害女性研究プロジェクト障害のある女性と差別の交差性

筆者: 河口尚子 (衣笠総合研究機構 客員研究員) 執筆: 2018年06月

障害のある女性に対する複合差別・交差差別

 社会的に周縁化され、被抑圧的な地位にある集団ないしカテゴリー(マイノリティ)に属する、あるいは属するとみなされる女性たち(=マイノリティ女性)は、性とジェンダーに基づく差別のみならず、「人種」、民族的出身、国籍、宗教、障害、性的指向などその他の事由に基づく差別が加わった複合的差別状況があることは、90年代以降少しづつ知られるようになってきた。
 そうした複数の差別は、単に重なるだけではなく、「複数の差別が、それを成り立たせる複数の文脈のなかでねじれたり、葛藤したり、一つの差別が他の差別を強化したり、補償したり、という複雑な関係」にあった(上野,1996)
 一方で、国際人権保障システムは、長い間あらゆる差別は単一の次元で発生し、相互排除的であるかのように差別問題を事由ごとに分離して扱ってきた(元,2016)。そのため一つの事由のみでは取りこぼされてしまう問題も指摘され、差別を交差するものとして同時にとらえる視点として交差差別が提唱されるようになった(Crenshaw and Dobson,2016)。
 20世紀の終わりになると、国際人権条約においても差別の複合性・交差性が注目されるようになった。女性差別撤廃条約(CEDAW)の一般勧告28号(2010採択)では、差別の交差性に言及し、第2条の締約国の一般的義務では交差差別(intersectional discrimination)・複合差別(multiple forms of discrimination)への取り組みを締約国に義務づけている。
 障害のある女性に対する複合差別・交差差別については、その構造を把握できるほど実態調査がなされてはいない。今回の聞き取り調査により、交差差別の構造の一端を解明することをめざしている。

障害のある女性に対する交差差別の典型として―リプロダクティブ・ヘルス・ライツ

 障害のある女性に対する複合差別・交差差別のひとつの典型として、リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する権利と健康)の問題がある。
 聞き取り調査では、現在においても、性的存在であることの否定、、婦人科受診・検診の困難(アクセシビリティ・介助)や、出産を受け入れる病院の確保、障害のある子どもが生まれる可能性や障害のある女性が母親になり子育てすることへの否定的な対応などの経験が語られている。
 さらに、それらは<介助者との関係とプライバシーの確保>、<断薬・減薬など薬の服用をどうするか><自分や相手の家族との関係><経済的な立ち位置><ロールモデルや共感してくれる人などのサポート・ネットワーク>などといった要素とも大きく関わってきている。

障害のある女性のエンパワメント

 旧優生保護法が障害のある女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツを脅かすものであることは、法が存在した当時から障害のある女性たちが訴えてきたことである。旧優生保護法下の強制不妊手術の被害については、今、ようやく社会の関心が向けられるようになった。被害者も声をあげはじめている。
 旧優生保護法下の被害についての訴えのように、障害のある女性たちが、みずからの課題を可視化し、リプロダクティブ・ヘルス・ライツの確立に向けて取り組むことは、セルフ・アドボカシーであり、エンパワメント活動の一環ともいえる。

参考文献

  • 浅倉むつ子,2016,「イギリス平等法における複合差別禁止規定について」『ジェンダー法研究』3: 33-55.
  • 上野千鶴子,「複合差別論」(井上俊他編『差別と共生の社会学』岩波書店、1996年、所収),204
  • Crenshaw, K.,1991, Mapping the margins; intersectionality, identity politics, and violence against women of color, Stanford Law Review, 43(6):1241-1299
  • Crenshaw, K. and Dobson, A.,2016,The Urgency of Intersectionality (「インターセクショナリティの緊急性」)TED Talk, TED Women 2016,
  • 優生手術に対する謝罪を求める会 編, 2018、『優生保護法が犯した罪』-増補新装版(現代書館)

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