01 就労支援チーム

リーダー:望月 昭(文学部教授)
 「はたらく」ということは、消費者であることと同様に、社会参加を具体的に示すひとつの重要な行為である。しかしながら、昨今の経済事情とも相俟って、さまざまな意味での「障害」や少数派であるがゆえに「今、働くこと」が困難な個人やグループが存在する。
 当チームは、大学という地域資源を積極的に利用して「就労可能な社会」を先取りした模擬空間の中で、個別の個人が継続的就労を実現するために必要な包括的で連携的な支援内容について実証的に検討する。大学を模擬空間とすることで、地域店舗では受け入れの難しい「障害」のある個人に対して、構造的で系統的な物理的・人的資源の配置を試み、「援助つき就労」のそれぞれの形を可視化し、そうした支援内容を社会実装していくことを目指す。
 対象となるのは、知的な「障害」のある生徒、少数派外国人を含めたコミュニケーションのバリアを被っている個人、そして長期にひきこもりの成人などである。
 大学を拠点として、学生ジョブコーチ、ファーストステップ・ジョブグループ、デイジーシステム、デジタル情報バンクなどの新しい資源を活用し、シームレスなキャリア支援の方法を探る。
チーム参加メンバー 所 属 ・ 職 名 専 門
望月 昭 文学部・教授 対人援助学、応用行動分析、障害児教育、障害者就労支援
小澤 亘 産業社会学部・教授 文化社会学・思想研究、 文化論政治思想
八木 保樹 文学部・教授 心理学

2010年度活動報告
 当チームは、「障害」のある個人、少数派外国人を含めたコミュニケーションのバリアを被っている個人、そして長期にひきこもりの成人などを対象に、大学に設定された新しいハード・ソフトな資源を活用し広義のキャリア支援の方法を探ると同時に、「援助」という関係的行為における社会心理学的な要因を探ることを目的としている。
 望月は、学内で設定した模擬的店舗「CAFÉ RITS:カフェリッツ」を用い、総合支援学校高等部の生徒を対象に、構造化されたデザインの下でそれぞれの生徒における就労行動の支援方法、そして「情報蓄積と移行」チームと連携し、継続的支援を可能にする「ポートフォリオ」の書式と機能について実践的に検討した。
 八木らの小グループは、支援を受け入れる側の心理として対人認知に関する実験的研究を蓄積している。人は、自分自身とおなじネガティブな特徴(例えば、攻撃性が高い)を持っている他者の存在に対して、その他者との類似性を否認する、言い換えれば心理的に距離を置こうとすることが実証されている(Schimel et al, 2000)。この現象が再現されることを確かめたうえで、この心理的距離の防衛を生じさせない可能性のある条件について実験を行った。また、苦境にある他者に対する共感に重なる類似性の否認・心理的距離についても行った。さらに、他者の行動に関する情報が入力されたとき、人は自発的・自動的に対象他者の特性や目標を推論することが知られている(Winter & Uleman, 1984)。この自発的推論過程を検証しようとする研究を始めた。
 小澤は、滋賀県湖南市教育委員会と連携し、初期日本語教室「さくら教室」で学ぶ外国人児童に対して、(1)フラッシュカード(約800語)、(2)基本構文、(3)国語教科書(1、2年版)より8編、(4)オリジナルテキスト1編の多言語DAISYテキスト(日本語と英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語)を開発した。さくら教室の公開授業、湖南市日本語教員研修会などを通じて、実践的に支援のあり方を検証した。

2011年度活動報告
 第一は、学生ジョブコーチ(RSJC)のプロジェクトを中心に、障害のある成人の施設外の就労実習の支援における実践的・理論的研究を行った。学外実践は、京都市内の企業で行われ、1)障害のある利用者による作業チームの相互協力の可能性とその支援方法の検討、2)利用者の就労行動の改善に役立つ記述・分析方法の検討が行われた。2)については「社会臨床実験室」(CafeRits:喫茶仕様模擬店舗)における、構造化された作業実践を通じて、障害のある生徒(特別支援高等部)の「できますシート」(ポートフォリオ)の構造や機能についての検討が、特別支援学校との共同のもとで行われた。この「できますシート」は、上記の特別支援学校の全学の「情報共有システム」としても検証された。第二には「ひきこもり」の支援について、ファーストステップ・ジョブグループ(FSJG)による実証的な支援分析が行われた。